このページは、1992年11月20日に〈谷口書店〉から出版した『杉山流三部書』の現代語訳版をデジタル化したものです。
杉山流三部書は、江戸時代の中期、関東の総検校となった杉山和一によって作成されたものです。杉山流鍼術の蘊奥を尽したこの書はしかし、江戸時代を通じて秘蔵され、ようやく明治に入って、世に出ることとなりました。縁があってここにこられた方の、勉強の手助けになれば、その喜びこれに過ぎることはありません。
デジタル化にあたり、読みやすくするために改行個所を増やしたり、適宜水平線を挿入し、また画像の位置を工夫しました。
杉山流三部書の現代語版をお送りします。もともと読誦に便利なように書かれているものですから、それほど難解なものではありません。
ただ句読点の場所に問題があったり、ところどころ現代人には耳慣れない言葉や言い回しが出てきたりします。そういった部分を平易に書き改め、原文の意を損なわないだけでなく、原文の意をより深く明確に表現できるように苦心したつもりです。
また、経穴の部位に関しては、できる限り原文に忠実に記載することによって、どのような穴の把え方を杉山流ではしていたのか見えてくるよう配慮しています。
杉山流は、《素問》《霊枢》《難経》を中心として構成されています。
一時期《難経》一辺倒であった鍼灸界が現代日本に存在したことを考えると、はるかに深い奥行きを杉山流は持っていると言うべきでしょう。
もともと経典の言葉は、実際に臨床をしていく過程で始めて読み取ることができるものなのでしょうが、杉山流においてはそれも含めてかなり整合性のある体系になっていると思います。
ただ、経絡の系統が経穴との関係でしか述べられていない点は、私としては非常に不満が残ります。経絡は、臓腑を始めとしていろいろな器官とも関係しており、また経脉と絡脉以外にも経筋・経別・皮部・奇経など非常に多岐に渡った複雑な相互関係が古典には記載されているのですから、その部分に触れられていないということは、問題であると言わざるを得ません。
また人体を構造的に把えるにはこの他に、気血の問題や臓腑の相互関係をもっと有機的に把えていく必要があると思うのですが、そのことについてもまだ積極的な記載がなされておりません。
このように記載の足りない部分はありますけれども、その理論において西洋医学に追従しているような現代の鍼灸界に対しては、裨益するところ非常に大であると言うべきでしょう。この書を詳しく読み込んでいくならば、少なくとも、鍼とは何か、どのように考えて鍼を打っていくのか、ということの基礎を理解することができます。
このような基本的な書が、江戸時代に書かれているということは、非常な喜びです。
一九九二年七月土用
伴尚志
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