腰痛の弁証論治


腰痛の弁証論治
病因病理:弁証論治




中学二年生の若さで普通に走っていてぎっくり腰になるという、腎の要でである腰の弱さや、もともと生理周期が40~60日と長いことなど、素体としての腎器の小ささが窺え、10代から続くこの患者さんの腰痛という主訴は、腎虚がベースであると考える。

また、中学一年の頃からずっと梅雨の時期には冷えて下痢をするという脾気の弱さを持っている。これに関しては、もともと食べ物は”のどごし”と言うほどの早食いで、早食いゆえに食べ過ぎることも多いとのことで、脾気の弱さは患者さんの不摂生が原因である可能性が高い。

この腎虚、脾虚傾向のまま、何とかバランスを取りながら社会生活を送るが、夜間の専門学校に入学して、勉強に仕事にと忙しくなると、上半身が暑く、下半身が冷えるいわゆる冷えのぼせのような状態が出たり、不整脈が出始める。 これは腎の損傷が大きくなり、気の上衝が強くなって、冷えのぼせの症状が出ている。この腎気の虚損は、心にも及び不整脈という症状を引き起こすことともなる。

もう少し詳しく分析すると、この患者さんの腰痛は、温めたり、お風呂にはいると楽、朝起き上がるまでがつらいということから、陽虚傾向の痛みであると考えられる。しかし、専門学校在学中の過労気味の生活は、腎陽のみならず腎陰の損傷へと腎器を一段小さくすることとなり、それが心陰に及び、不整脈を起こしていったと思われる。

この陰虚により虚熱が起こるために、アイスクリームという冷たいものを欲するようになり、それが脾気を落とし、ひいては腎気をさらに損傷するという悪循環にも繋がっていると考える。生理2日目に出血量が多くなると下半身が重だるいのは、物理的な血の損傷、つまり陰分の損傷により、陰虚が一時的にきつくなり起こるものと推察する。

専門学校を卒業すると不整脈が減少していることから、自己の生命力により腎器は少しずつ回復していきていると思われるが、もともとの腎虚を養うまでにはいたっていない。そのため、テレビを見て感情が高ぶってひどく泣くと腰痛が悪化するなど、感情の高ぶりという気の上衝により、中心が虚して腰が痛むという現象も起きる。腹診でも関元の力のなさは38歳とは思えない印象を受けるほどで、中心である臍下丹田の弱さ、つまりは腎の弱さのために、腰痛、冷えのぼせは続くという現状になっている。







【弁証】腎虚

【論治】補腎







<治療方針>

腎器を小さくするほどの損傷を経過しているので、腰は温めると楽ということから、陽気だけを補うのでは陰虚が大きくなり、返って表面的に陽気が浮く現象が起こると思われます。 なので、腎気を立てながら、中心に納めることが重要と考えます。

もうひとつ脾気の弱さもありますが、これは早食い、食べすぎ、アイスクリームなどご自身の節制を促して日々の損傷を少なくし、それと前段で述べた腎気を立てることでどれだけ脾気が立つかを観察したいと考えます。







<生活提言>

10代という若い頃から続いている腰痛であることを考えると、もともと生命力の土台の力である腎の弱さが窺えます。それに加えて、いろんな治療を見て勉強してみたいという向上心のある方なので、週6日働きながら、休日や空いている時間にマッサージに鍼灸にと精力的に動かれていますので、専門学校時代よりは体調は少し回復しているのでしょうが、まだまだ腎気は困窮した状態であると思われます。 この身体の困窮した状態を隠すために、「腎の府」である腰を硬くして、身体を支えるという状態、つまり腰が突っ張り棒の役目をしているのが現状です。

まずこの現状を理解したうえで、身体の発する言葉に耳を傾け、心身ともに休息することも必要であると思います。その上で腰痛を治したいという気持ちがあるなら、今までのようなその場限りの治療ではなく、少し継続した治療が必要だと考えます。マッサージや腰の局所に鍼をするのも、身体を支えるためとはいえ硬くなった腰を緩めてあげると一時は楽になるでしょう。しかし根本の原因である腎器の虚損を補わない限り、腰痛は続くこととなり、返ってひどくなる可能性も考えられます。

また、早食いとアイスクリームという脾への負荷をご自身で節制されると腎気への援けともなります。

ただ、睡眠、二便の状態が良いですし、38歳という若さですから、治療の効果は早いのではないかと推察します。また1回目の治療のときに、「ゆっくり食べたほうがいい。コーヒーの量も少し減らしたほうがいい。」という私の言葉を素直に受け入れて下さったので、治療効果も上がりやすいと考えます。







主訴:問診

時系列の問診

切診

五臓の弁別

病因病理:弁証論治











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