治療指針:生活提言


イライラ首肩こりの弁証論治
病因病理:弁証論治




病因病理



体調を崩し始める結婚・出産前の20代の頃の話を聞くと、この頃からすでに強い肩凝りを感じていたり、目眩が時々起こっていたりと、現在の愁訴のいくつかがすでに出始めている。20歳の時点で肩凝りの自覚があり、鍼治療を試みたりしているが、鍼を刺すこと自体への緊張のため、治療後に返って肩が凝ってしまうという状態になり、数回ほどで治療を中止する。このことを考えると、この肩凝りは肝鬱によるものであった可能性が高いと思われる。昔から神経質で寝付きが悪かったという本人の発言からも、もともと肝鬱の傾向が強い人であることが窺える。20歳にして強い肩凝りを感じるくらい肝鬱が激しかったことを考えると、この頃から時々起こっている目眩も内風によるものである可能性が高いと思われる。

ただ、20歳頃というのは肝気が強くても、腎気も充実している時期でもあるため、肝鬱がきつくて寝付きは悪かったものの、肝気が納まり眠ってしまえば睡眠自体には影響は無く、腎気を傷るまでには至っていなかったと思われる。また20代の間は体重の変動も無く、自分でベスト体重とする58kgくらいを保っていたことを考えると、間食が多いという食生活ではあったが、脾気を落とすことなく過ごせていたようである。







結婚した翌年、第一子を出産し、この頃から徐々に体調を崩し始める。産後、体重が減らず、逆に増え、目眩の頻度が増し、頭痛がするようになり、風邪を引きやすくなるなどの症状が出始める。これは出産により大きく腎気が損傷され、産後、それを回復することができず、もともと肝鬱傾向で気逆しやすかったので、目眩が多くなり、頭痛がするようになり、全身の気虚は衛気の守りも弱くし、風邪を引きやすくなったと考える。

産後というのは腎気の損傷が大きいため、肝気を張って身体を立て直そうとし、その鬱熱が胃に移って生命力を回復しようとして、食欲が異常に亢進するが、身体が整い始めるとその食欲も落ち着いてくるものである。しかしこの患者さんの場合、食欲の亢進は現在まで続き、返って身体の回復を遅らせることとなっているように思われる。

体重が増えているのも食欲の亢進が止まらないからだと思われるが、出産前から現在まで続く食生活の乱れを考えると、自分自身で脾気を常時傷め続け、出産までは脾気を腎気が支え続けていたが、出産により腎気が落ちるとその脾気を支えられなくなり、産後は脾気の本来の虚損が表面化した状態が続いているものと考えられる。

産後は、睡眠薬を飲んでも中途覚醒をするほど眠りが浅くなり、出産及び産後の無理により腎器をかなり小さくしたことが窺える。







ただその後は、出産後の体調が最も悪かった頃と比べると、気分の浮き沈みはあるものの薬が無くても過ごせており、産後起こり始めたいろいろな症状も無くなりはしないが、悪化することも無かったようで、小さくなった腎器はなんとかバランスを取りながら、虚損は進行していなかったと考える。

また、体重も出産前の体重までは減らなかったが、増えても75kgくらいまでで、脾気も虚損状態を引きずってはいたものの悪化してはいなかったと考える。ただ、65~75kgの間を行ったり来たりしていたというように変動が大きいことを考えると、脾気が損傷と回復を繰り返していたことが窺え、脾器の脆さが見受けられる。そしてこの脾気の弱さを回復できない要因として、食生活の不摂生が大きいと思われる。







37歳になった去年、太った気がして体重を量ってみると85kgになっており、ダイエットでなんとか10kg減らし、75kgになる。今年の春頃まではその体重を維持していたが、そのあと毎月1kgくらいずつ体重は増え、今現在は去年のピーク時と同じ85kgとなった。

このように体重が急に増え始めたことに加え、産後、起こりやすくなっていた目眩、頭痛の頻度、症状が最近ひどくなり、またずっとあった肩凝りも範囲が広くなり、凝り感も強くなっていることを考えると、脾腎の損傷が急に進み、肝鬱が強くなっていることが窺える。脾腎の虚損が急に深くなったから肝鬱も強くなったのか、肝鬱が強くなったから脾腎のそれぞれのバランスが崩れたのかは定かではないが、愁訴の悪化状況を見ると脾腎の虚損と肝鬱がひどくなっているのは確かだと思われる。

なんとか体調として悪いながらも保っていたバランスを崩し始めた一つの大きな可能性として、去年もしくは今年の初め頃に風邪を引いて、それが内陥しているために、気逆の症状(目眩、頭痛、肩凝り)もひどくなり、内陥しているところに年中風邪を重ねて引くので、脾腎の損傷も大きくなっていった、ということが考えられる。「大椎を中心に盛り上がっていて、ここを中心に凝って辛く、冷えがある、右風門の弛み、右肺兪の弛み、右附分の弛み、右魄戸の弛み」などの上背部の状態からも、この風邪の内陥の可能性は充分に考えられる。







現在主訴として訴えている首肩背中の凝りは、衛気の弱さを支えるための表面的な鬱滞であり、そのためにマッサージやリハビリで鬱滞を晴らすような処置をすると、返って身体が疲れて、凝りが強くなることからもそれは明らかである。この衛気が弱いのは脾腎の虚損が大きく、裏が弱いからであり、もう一つの主訴である生理前のイライラがひどくなったのも、裏が弱くなって肝鬱が強くなったために、生理を起こそうと身体が頑張る時期に、肝鬱がきつくなってイライラが強くなるからであると考える。

産後、体調の落ち込みが激しかったものの、現在では薬を服用せずにもなんとか生活できており、本人も以前ほど落ち込みはひどくないというように回復傾向にある症状もある。出産前から食生活の乱れはあったものの、その脾気へのダメージを補い続けられたことからも窺えるように、腎器は元来丈夫な方であり、いくつかの症状が落ち着き始めているのも、腎気が回復しようとしているからだと思われる。ただ、この回復の足を引っ張っているのが、飲食の不摂生による脾虚であり、お通じの状態、体重の増加などを考えても、脾気の立ち直りが身体を立て直すための鍵ではないかと考える。




弁証論治



弁証:風邪の内陥、脾虚、腎虚

論治:去風邪、健脾、補腎







主訴:問診

時系列の問診

切診

五臓の弁別

病因病理:弁証論治

治療指針:生活提言











一元流
しゃんてぃ治療院