治療指針:生活提言


股関節・臀部の痛みの弁証論治
病因病理:弁証論治




病因病理



主訴が起こる以前より肩こり、夜間尿がある。肩こりは気を遣った後や集中して頑張った後に増悪する。又、太息が多いなどから肝鬱傾向の体質であったと考えられる。

夜間尿は1日2,3回程度であるが、その他に目立った腎虚の症状が無いので加齢による腎虚程度であったと思われる。







58歳で臀部を強打した際、膀胱経筋を痛める。

治療の為に灸や接骨院に通っていながら、経絡経筋病が2年経っても完治しなかったのは 加齢による腎虚も含め、この方の生命の充実度(回復力)が臀部打撲のレベルよりも劣っていた為であろう。

2年後、回復しきらない頃に叔母の世話をすることとなる。

一つの事に没頭する性格とストレスで素体の肝鬱状態が助長され、疎泄失調が脾の運化に影響し食欲が低下し始める。

1年3ヶ月程の間に9kgもの体重減少により全体的な気血不足の状態になっていたと推測される。

打撲の回復には腎気を必要とするうえ、肝鬱が衰えていた腎気をさらに消耗するので、この方の器の充実度は更に低下していった。

腎気の消耗は消化機能を支える腎陽の不足に繋がり、脾気も回復しづらい状態になっていく。







痩せているピークの頃便秘がちになり、センノサイド(番瀉葉:性味・甘苦寒 帰経・大腸、肝 効能・瀉下導滞)を服用してもだんだん効かなくなってきている。

排便後の疲労感は無いことから、排便時の生気(腎気)の消耗というよりは、気血不足で腸の伝導が無力になっている所を冷やして瀉下させることにより脾の陽気を損傷し、さらに脾気を低下させるという悪循環であると考えられる。この悪循環でこの方の脾の器は一段小さくなってしまった。

現在は薬をマグミット(酸化マグネシウム:緩下剤 腸内に水分を引き寄せ、便を軟化増大させ腸の運動を促進させる)に変更したが、下剤による脾気の損傷は続いており悪循環を絶ち切れていない。

ストレスによる肝鬱が解消されたため食欲は戻ったが便秘が未だに解消されないのは、下剤の使用によって脾の器が小さくなってしまったためだと思われる。







叔母の世話が終わり食欲も回復して、体重が2kg程増えた頃に今回の主訴の原因である荷物の下敷きになり再び膀胱経筋を痛める。

患者さんご本人は以前の臀部痛が完治したと思われている。

しかし、切診では仙骨全体に薄く紫っぽい感じや会陽に深部緊張がみられ、 器の充実度が元の状態まで回復しておらず、後天の精である脾気を損傷し続けている状態では完治していなかった可能性の方が高いと思われる。

又、荷物の下敷きになったため、実際に打撃を受けとめた場所は広範囲で、臀部以外に損傷部位は多数に及んだ。

治療の経過で会陽の深部緊張や環跳付近の凝りが緩みづらい事からも、初めの臀部痛より受けたダメージは大きかったと推測される。

そのため、又も生命力がダメージに負けてしまい、打撲後にこむらがえりや足先の痺れが起こってしまった。芍薬甘草湯で陰血を補い補気したことが回復力を助ける事となり、それらの症状が緩解したのであろう。







打撲の1か月半後に鍼治療を始めた頃は、臀部周辺に気血の損傷があり阻滞して凝り固まった状態であった。

疎通経絡を主眼に治療することで、局所の問題である凝り(経筋の阻滞)はゆるんできたが、 深部の凝りや環跳付近は疎通しても再び滞る状態であった。

これは生命力の阻滞をうまく修復できていないという事である。

又、内視鏡検査後に股関節が固まって足が上がりにくいという症状が出たのは、 腎虚はさほど強くないので検査での疲労感は無かったが、下剤を多量に服用することで脾胃を傷めた為、胃経の気滞(髀関)をひき起こして股関節が固まったようになったとも考えることができる。

以上の事より股関節痛は局所の問題だけではなく、全身の問題(主に脾胃の虚)も絡んでいる可能性が高い。

その為、別の損傷部位(股関節の範囲の広がり、大腿内側、鼠蹊部(髀関付近)、)も邪正闘争に負けてしまい回復に至ることができず、痛みとして出現してくる事となる。







又、主に下剤の使用の継続によって小さくなってしまった脾の器(脾陰)で、脾は今までと同じ生理機能を果たそうとするため、機能(脾陽)過剰による虚熱が生じやすくなる。

口・舌・喉の渇きをよく感じるのはこの虚熱の影響、あるいは虚熱が近くの臓である心に及んだためではないだろうか。

「心兪、厥陰兪の筋張り」「肩こりは心兪、厥陰兪から始まる」というのは少なからず心に問題がある事を示しており、この頃同時に起こった右肩関節周囲炎は心に及んだ熱が表裏である小腸経筋に波及したためと推測することができる。




弁証論治



[弁証] 脾虚 腎虚 経絡経筋病

[論治] 健脾益気 補腎 疎通経絡







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時系列の問診

切診

五臓の弁別

病因病理:弁証論治

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