主訴は不妊とのことで、ご本人の年齢、ご主人の状態を考えると西洋医学的な治療を受けながらその治療をバックアップするという意味も含めて鍼灸治療を希望された。
不妊という状況を除いて考えるとご本人は特に体の不調を感じておられず、結婚して仕事を辞めてからはむしろ体力的には楽になったとのことである。しかし、結婚前の30代からあった早朝にトイレに起きる回数が結婚後は増えており、昼間のトイレも近い方だと感じているようで、腎の陽虚があることを窺わせる。
ここでこの患者さんの体重の増え方を見てみると、20代後半から少しずつではあるが体重が増えており、結婚後にさらに5kg程増え、3年ほどかけて体重を10kg近く落としている。この患者さんの身長(165cm)を考えても一番重かった55kgでも適正体重と思われるが、ご本人はかなり体が重く感じられるとのことで、44kg位をキープしたいようである。
この体重の増減の仕方やお通じが便器に付着して取れにくいことが時々あったり、理由無く2ヶ月に1回くらい下痢をすることも含めて考えると、脾の陽虚があり、内湿をうまく捌けないためにブヨブヨと太りやすく、ある程度湿痰が溜まると下痢をして出しているのではないかと思われる。
この脾陽虚の傾向がいつ頃からあるのかは定かではないが、昔から朝は苦手で疲れていなくてもいつまでもゴロゴロしていたいということを考えると陽虚の傾向があったのではないかと推察される。それが20代後半頃から体重増加として現れ始め、30代になると腎陽にも影響し始めて早朝にトイレに起きるようになったのではないかと考える。
結婚して仕事をしなくなりゴロゴロする時間ができて体は楽になったにも関わらず、脾腎の陽虚が進んでいるように思われるが、仕事をしているときは営業職だったので歩くことが多く、体力的精神的にも今よりもきつくて肝鬱にもなりやすく肩こりもあったようであるが、歩いて体を動かしていたために陽気が立ち、そのためお通じも毎日あったり、体重の増加も49kgくらいで抑えられていたのではないかと推測する。
このように陽虚への傾きが年齢とともに大きくなりつつあるので、まだ問題が深くなっていないこの時点で鍼灸治療や普段の養生により、器のバランスを崩さないようにすることが大切と考える。またこの陽虚への傾きを小さくしていくことは、不妊治療の助けにもなるものと考える。
【弁証】 脾腎陽虚
【論治】 温補脾腎
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