本症例は、子供のときのリウマチ熱のため、自覚症状はなかったものの、 62歳のときに、心臓の弁の交換をし、2年間は何事もなく経過したものの、 風邪をきっかけに種々の愁訴が発症し、日常生活にも困るような身体のだるさ、動きにくさ、 肩の痛みを発症している。 子供のころに、ポリオ、リウマチ熱などの病気にかかるものの、良好な転帰をたどり、 充分に成長し、問題なく経過されています。
62歳のときの、心臓弁の手術もそのご2年間、良好な経過をたどっていますので、 大きな問題はなかったものと思われます。
しかしながら、もともと脾虚気味で便通の状態が悪いこと、右足下腿経筋に萎縮があるため 右足胆経、腎経に負担がかかり、長期間に負担があり、臓腑へも負担があった可能性があること、 心臓という胸の中心の部位への外科的手術などがあり、生命力が充実しているときならば なんら問題のないレベルでの回復状態でも、風邪などを引き込んだときには、支えることが できず、一気に深く風邪が入ってしまう結果になったと思われます。
4月の風邪の侵襲により、呼吸困難や血圧の低下がありました。
全体的にぎりぎりなところでバランスをとっていた素体にとって、風邪を引き込 むことは非常に大きな負担であり、全身の気虚を引きおこしました。
全身の気虚を引き起こしたことにより、手術などで一番の弱りであった心に負担 がかかり、心気の不足により心房細動、うっ血性心不全などの症状をひきおこし、 呼吸困難や血圧の低下という全身の生命の危機になっていったと思われます。
幸い、入院投薬にておちつきましたが、このとき引き起こした全身の気虚により、 全身の気血のめぐりが悪くなり、下にして寝ていた肩の部位での痛みの発生とつ ながりました。
また、生命力が一段と落ちたために、引き込んだ風邪が治りきることができず停 滞したため、その後も6月7月と心臓の発作を引き起こし、より全身の生命力を落 とす結果となりました。
背部兪穴の左三焦兪をトップとし、右腎兪の大きな落ち込み、左右大巨の抜けは、 気虚の位置が、腎にあることを物語っています。今回の体調不良をおこした風邪からこの2ヶ月、夜間排尿が はじまっているのも腎気の大きな落ち込みを示唆しています。
上背部のこそげ弱りの反応が脊中際ではなく、弱りこそげの位置が外方にずれていることは、 風邪が表位にあるのではなく、深い位置に入り込んでいることを示しています。これは、心臓の手術などの 弱りがあり、呼応した可能性も考えられます。
もともと便通などの問題があり、脾気が多少弱めではあること、 下腿経筋の問題が長く続く状態であったこと、 心臓の手術をしたこと などにより、64歳の風邪を引き込むまでは、全体としてはバランスがとれ、症状として弱りが 出るほどの状態ではなかったものの、充分な生命力という状態ではなかったために、風邪の侵襲を表位で防ぎきれず、一気に心に直中したため、気滞、気脱。そして全身の気虚へと波及しました。 その後、風邪が抜けることができず停滞したために2度目、3度目の発作をおこしていることなど、 全身の気虚が回復できず、風邪の停滞があるため、朝がとくにつらい、日常生活にも困るほどのだるさ、疲れやすさとなっていると思われます。
弁証 風邪の内陥 気虚 腎虚
論治 去風散寒 益気補腎
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