奇経八脉は肝腎に隷属する





経脉は臓腑を主とし、十二経脉はそれぞれ十二臓腑に属しています、 これが奇経八脉と大いに異なる部分です。

衝脉・任脉・督脉はみな「腎の 下」「胞中」から起こりますが、ここは「下元の部位」ですから、すべて 下焦に属していることになります。

葉天士はこの事に基づいて、『奇経八 脉は肝腎に隷属する』という説を提出しています。







五臓の三焦への分布をみると、心肺は上焦に属し・脾は中焦に属し ・肝腎は下焦に属しています。

また脾・肝・腎三臓は腹部に位置して足の 三陰に連なり、衝脉・任脉・督脉と密接な関係があります。

このことを葉 天士は、『労損は三陰から奇経におよぶ』『下焦が損なわれれば中焦にお よぶ』と述べ、労損が長期にわたると奇経八脉に病がおよぶと把えている のです。

ここまで述べてきた気・血・経脉・絡脉の関係を図にすると、以 下の通りになります。

     経脉      絡 脉         

   →気・→血・・・→奇 経 八 脉
    |  |    |  |  |
    肺  心    脾  肝  腎
     \ /     |   \ /
     上焦     中焦   下焦







疾病が発生する理由について葉天士は、『初めに気が結して経脉に あり、その状態が長期にわたると血が傷られて絡に入る』と述べています。

この「絡」とは、内部にあって「臓絡」と「腑絡」とに分けられるもので、 ともに奇経八脉に通ずるものであるとされています。

疾病が悪化するにし たがって、このように徐々に深く入っていくと考えているわけです。

たと えば長期にわたって下痢が続いている『少腹部や肛門に墜堕感があり、両 腰・胯・脊・髀が酸痛している』患者を葉天士は診察して、『臓腑から絡 脉が傷られて、すでに奇経におよんでいる』と判断しています。







そもそも臓腑は五臓を主としていますが、その中でも肝腎を中心と しています。

肝腎はともに「下元」に属しており、腎が全身の大本である ためです。

王冰は督脉について、『経脉の海を督領する』【原注:《素問 ・骨空論》における注】と表現していますが、これは、督脉が経脉の総領 であるということを意味しています。

また督脉と足の太陽は、足の少陰を 通じて腎に属絡しており、帯脉は、足の太陽および督脉から分かれ出たも のであり、陽蹻と陽維とは足の太陽に通じており、任脉・衝脉・陰 蹻・陰維は足の少陰と直接関係しています。

このように見てくると判 るとおり、奇経八脉は全て腎と関係しているとみることができます。


さら にまた督脉は任脉と通じていて肝経とも頭頂部で会しています。

これらの 確かな根拠に基づいて、葉天士は『奇経八脉は肝腎に隷属している部分が 多い』と語っているのです。

この説に対して後代の呉鞠通は賛成し、『ま た奇経八脉が肝腎に付いている状態は、樹木に根があるようなものである。』 【原注:《解産難》】と付け加え、さらに後代の各医家も、この葉天士の 説にこぞって賛辞を掲げています。







葉天士がこの肝腎と奇経との密接な結合関係に気づいたのは、弁証 と用薬について主として臨床を通じて考えていくことからでした。

『下元 の虚損は必ず八脉に累をおよぼす』

『肝腎という下焦が病むと必ず留連し て〔訳注:病がしつこく留まって〕奇経八脉におよぶ』

『思うに、肝腎は 必ず内傷によって病となり、それが長期にわたると奇経の諸脉と交わり、 これを傷ることになる。』

このように葉天士は語り、枸杞子・沙苑蒺 藜・小茴香・桑寄生・杜仲・肉桂・牛膝・続断・生熟地黄・黒芝麻・穭豆衣・桑椹・菟絲子・柏子仁・山萸・女貞・旱蓮・鎖陽・覆盆子・ 磁石・竜骨・牡蛎・鹿茸・鹿角・亀板・鼈甲・阿膠といった薬物を用いて 治療しました。

これらはすべて肝腎両経に属する薬で、巴戟天・肉蓯 蓉・補骨脂・蓮肉等は腎経に属する薬です。

また特に鹿角・鹿茸・亀板・ 阿膠の類に対して葉天士は、『血気有情の属』『生気を栽培する』薬であ ると述べ、『鹿の性は陽であり、督脉に入り、亀板の体は陰であり、任脉 に走る』などとして、奇経に直接入る薬物であると高く評価しています。

このことからさらに、牛や猪や羊の骨髄・河車・人乳などを『填髄充液』 〔訳注:髄や液を栄養〕することのできる薬物であろうと彼は考え、これ を用いました。







このようにして葉天士は肝腎と奇経八脉とを理論的に密接に結合さ せ、それをさらに具体的に臨床上で応用していったのです。









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