経行吐衄の論治






治療原則



熱によるものはこれを清し、逆するものはこれを平するという方法 が当然基本になります。実火によるものは、清熱瀉火して、気の上逆を降 して血を止めます。虚火によるものは、滋陰潤肺して熱を清し、気の上逆 を降して血を止めます。

《景岳全書・血証》には、『陰を補うことによって陽を抑えれば、 火が清せられて気が降り、血は自然に静かになる。』とあります。このよ うに純甘至静の薬物を用いて正気を培い養うわけです。また同時に順気・ 降気することによって、気が順になれば血も落ち着いてきます。




用薬における禁忌と養生法



辛温・升陽・升散の薬物を用いることは避けます。そのような薬物 は上逆を助けることになるからです。《医学衷中参西録》には、『吐衄の 症状のものに対しては、黄耆・升麻・柴胡・桔梗といった薬物は禁忌であ る。気の上升を助けることによって、血もこれに従って上升するようにな ることを恐れるためである。』と記載されています。妄りに辛燥薬を用い て陽気を動じさせないようにしなければなりません。

苦寒攻下の薬物を用いすぎないようにします。これは、生気を傷っ たり苦寒薬によって乾燥させることによって、気血をさらに傷ることを避 けるためです。

さっぱりした薄味のものを摂り、辛辣厚味の〔訳注:辛いものや味 の濃い〕ものはできるだけ避けるようにします。これは胃中に熱が伏する ことを避けるためです。

便通をつけるようにします。






証候と証候分析




肝経郁火



月経前あるいは月経時期になると口鼻から出血するものです。その 量は比較的多く、血の色は紅く塊があります。心煩易怒・口苦咽乾・頭昏 目眩・乳脹脇痛などの症状を伴うこともあります。また、月経が早くおこ り・経血の量は少なく、舌苔は黄で、その脉状の多くは弦数です。

この証のものは、肝経が郁して化火し、血に迫って上に溢れたり、 気逆して血が昇るために吐衄といった症状を呈しています。このため、血 の色は紅く、その量も比較的多くなるわけです。熱が閉ざされ気が滞るた め、また血塊がみられます。火が郁していて内に盛んとなり条達できない 状態ですので、心煩易怒・口苦咽乾といった症状が現われます。火が郁し て上を侵しますので、頭暈目眩します。気が肝経に滞りますので、乳脹脇 痛します。熱が血に迫りますので、月経先期となります。血がすでに上に 逆行しており、下に溢れるべき経水が少なくなりますので、経血量が減少 します。舌苔の黄・脉状の弦数はともに肝火が内に郁している徴候です。




陰虚肺燥



月経が終わろうとするときあるいは月経が終わってから吐血や衄血 がおこるものです。その量は少なく、鮮紅色です。平生時より、頭暈耳鳴 ・潮熱や頬骨部の紅潮・掌心の煩熱・咽乾口燥・痰のない咳嗽といった症 状を呈しています。その体形は多くが痩せ細っています。月経が早くおこ ることが多く、経血量は少なくなります。舌質は紅で苔は少なく、その脉 状は細数です。

もともと陰虚があるものは、虚火が盛んになっているものです。月 経時期に陰血が下に血海に帰し、血が溢れ出すと、陰血がさらに虚して虚 火が上炎し、肺を灼き津を傷り、肺絡を損傷しますので、月経が終わる時 期になると血が上に溢れてきて吐衄の症状を呈することになります。その 原因はまさに陰液の虚損にありますので、経血の量は少なく、上に溢れる 血の量も多くはなりません。陰虚内熱であるため、月経が早まり、吐衄の 血の色は鮮紅色で、潮熱や頬骨部の紅潮・掌心の灼熱感などの症状を呈す ることになります。肺の津液が傷られているため、痰の少ないから咳とな り、咽乾口燥といった症状が現われます。他の証候もまた陰虚内熱の徴候 です。




胃火熾盛



月経前あるいは月経時期になると吐血するものです。その量は比較 的多く、色は暗紅で食物が混ざっていることがあります。口渇して飲みた がり・口臭・歯齦の腫痛・大便の秘結・胸中の煩熱などが伴に現われるこ とがあります。舌質は紅・舌苔は黄で、その脉状は洪大あるいは滑数です。

胃中に火が伏していて、月経時期、衝脉の気が盛んになると、衝脉 の気が胃火を挟んで上衝し、吐血をおこさせることになります。胃は受納 を主ります。胃気が降らず、その常態である下降の機能が失調しているた め、吐血したものの中に食物が混ざります。盛んな胃火によって津液が傷 られているため、口渇して飲みたがり、大便が秘結します。胃火が上炎し ますので、口臭や歯齦の腫痛がおこります。熱が心胸を乱しますので、胸 中の熱が盛んになります。舌苔の黄、脉状の洪大あるいは滑数はともに、 積熱が内に郁している徴候です。









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