月経前後の諸症の病因病理






総論



月経前後の諸症の現われ方は、内科的にみられる諸症とそれほど変 わりはありません。それではなぜ、月経前後の諸症は月経周期と密接に関 係しており、月経がおこると症状もおこり月経が終わると症状も自然にな くなるのでしょうか?この理由を理解していくことを通じて、本病の病 理を明確に把握することができます。この答えは、女性の生理的な特徴で ある月経時期の気血の満ち欠けということと、その患者さん個人の先天的 な体質から検討をしていくことを通じて得ることができます。中でも体質 的な要素は特に、その発病と非常に密接な関係にあります。

女性は陰に属し血を本とし血を用いて事にあたります。月経・妊娠 ・出産・授乳といった女性独特の生理的な現象は、女性の血を一生を通じ て傷り続けるので、女性はその血が不足しやすくなり、それにともなって 気が偏盛しやすい状態となります。そしてここにおいて、発病の内在的な 条件が作り出されることになるわけです。このように生理的な側面から考 えていくと、この病は不足を中心として起こるということが理解できます。 月経時期になると、陰血が下に血海に注ぎ始め、月経前になると衝脉と血 海とが徐々に満ち溢れてきます。月経になると血海は蔵していたものを瀉 し、満ちていた状態から虚した状態へと変化していきます。もし陰血がす でに偏虚の状態にあると、月経によってさらに形が不足することになりま す。これに患者さんの先天的な体質の違い・陰陽の偏旺偏虚・疾病の有無 ・出産や授乳の経験の有無によって、その本がすでに脆弱となっていれば そのバランスを失い、臓の機能あるいは気血がしばしの間失調することに なります。

このような状態となると、臓腑が濡養されなくなり、気血の盛衰が 失調し、月経前や月経時期になると、しばしば上に述べたような症状を呈 することになります。けれども月経が終わるころになって陰血が徐々に回 復し、気血の調和がとれてくると、臓腑の機能もそのバランスを回復しま すので、諸症状はなくなっていきます。このような理由で、さまざまな症 状が月経周期にしたがって規則的に出現することになるわけです。







発症の原因のうちでもっとも重要なものは、患者さんの先天的な体 質です。陰血が不足するということと、月経時期における気血の満ち欠け という現象は、どの女性にも共通していることです。もし同じような生理 的要素と月経時期における気血の満ち欠けという変化過程があるのであれ ば、先天的な体質の違いが症状を出させるか否かということを決定すると 重要な要因であると考えられるからです。

また、臨床的には、肝と脾の機能の失調が主となります。その状態 がもし長期にわたることになると、病は腎や心にまでおよんだり、気血の 盛衰や虚滞といった現象として表われてくることになります。




肝郁



もともと抑欝が多くて怒りやすく、情志が暢びやかではない人の場 合、肝気がその機能である条達と調和の性質を失調しやすい状態にありま す。このような状態のものが月経時期になると、陰血が下に血海に注ぎ、 平生の時期と較べると肝血がさらに虚しますので、肝が血によって養われ なくなり、肝気がさらに郁して、気滞がますます甚だしくなります。肝の 経脉は膈を貫き、脇肋に分布し、乳頭を過ぎ、少腹を循り、陰器を絡いま す。肝の気機が暢びやかでなくなると、経脉が阻滞しますので、月経前に なると乳房が脹痛し、脇肋が脹ります。さらに肝気が郁して化火すると、 上に清竅を侵しますので、頭暈頭痛し、煩躁して失眠することとなります。 またさらに肝木が横に脾土を剋すると、腹痛や泄瀉や嘔吐といったさまざ まな症状を呈することになります。




陰(血)虚



もともと陰血が虚している人の場合、月経時期になると陰血がさら に虚すことになります。陰が虚すと水不涵木と〔訳注:水が木を養わなく〕 なりますので、肝陽が上亢し、頭暈頭痛し、煩躁して失眠することとなり ます。陰虚によって内熱が生ずると、経行発熱・経行口舌糜爛といった状 態となります。その熱によって陰絡が傷られると、経行便血となります。 腎水という陰が虚して津液が上らなくなると、舌本が養われなくなります ので、経行声唖となります。




脾虚



もともと脾気が弱い人の場合、月経時期となっても経血が衝脉・任 脉を充実させることができず、気が血に従って下ることによって、脾気が ますます虚すことになります。脾は水穀を運化することを主りますので、 脾気が虚すると運化がうまく行われなくなり、水穀を化して精微を生じさ せることができなくなるばかりか、かえって湿濁を生じさせることになり ます。そのため、脾気が下陥するに従って泄瀉や経前の泄水をおこしたり、 水湿が皮下に満ち溢れて経行浮腫をおこすこととなります。







《女科経綸・月経門》では汪石山の言葉を引用して、『婦人の月経に先だ って二三日必ず瀉し、その後に経血が下るものの脉状を診ると、すべて濡 弱である。これは脾虚を示している。脾は血を主り湿に属す。経水が動じ ようとする時、脾血が先に血海に流れ注ぎ、その後に下に流れて月経とな る。もし脾血がすでに虚していれば、その湿を運化することができない。』 と記載しています。このような理由で経行泄瀉の症状を呈することとなる わけです。

《伝青主女科・調経》にもまた、『脾は湿土に属する。脾気が虚す ると土が充実せず、土が充実しなければ湿がさらに甚だしくなる。経水が 動じようとする時、先に脾がまずしっかりしていない場合、脾経は血を統 括するところであり血海に流れ注ごうとするが、湿気がこれに乗じている ため、先に水が泄れて後に月経となるのである。』と記載されています。







これらの記載はともに脾虚によって経行泄瀉が起こるという病理を 説明しています。この外、脾気が虚している時、肝がこれを侮り、土虚木 郁の状態となって、経行腹痛泄瀉といった症状を呈することもあります。




腎虚



もともと腎陽が虚している人の場合、月経時期になるとさらに腎陽 が虚し,脾の陽気を温煦することができなくなります。そのため水湿が蒸 騰し、脾がその健運を失調し、水湿が下に注いだり、満ち溢れたりして、 経行泄瀉や浮腫といった症状を呈することになります。

また腎陰が虚している人の場合、水不涵木と〔訳注:水が木を養わ なく〕なりますので、肝陽の上亢が激しくなって、頭暈頭痛し、煩躁して 失眠することとなります。腎水の陰が虚して上に心火を済けることができ なくなると、心火が上炎するようになるため、経行口舌糜爛となります。 心火がさらに盛んになると、経行狂躁といった症状を呈します。陰が虚し て内熱が生ずると、経行潮熱となります。その熱が陰絡を傷ると便血とな ります。




まとめ



以上のように病因病理をよく見ていくと、月経前後の諸症はさまざ まな臓の機能の失調によっておこるということが判ります。臓腑の機能の 失調は、このように多種多様な症状を呈するもとになるわけです。









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