督脉の病




《骨空論》に曰く。督脉の生ずる病は、少腹より上って心を衝いて痛み、前後することができません。これを衝疝とします。女子においては不妊となり、癃・痔・遺溺し・(のんど)が乾きます。



【原注:これは督脉から生ずるところの病状を述べているものであり、また、任脉・衝脉に脉から生ずるところの病についても兼ねて述べています。


「癃」小便が閉じて出にくくなっているもの。

「痔」肛門周辺に悪肉を生じているもの。

「遺溺」溺〔伴注:尿〕が、自覚なしに出るもの。


督脉の少腹より上るものは心を貫きます。そのためその邪は少腹から逆上して心を衝いて胸痛します。督脉は前陰をめぐり臀部をめぐるため、前においては小便が、後ろにおいては大便が出にくくなります。これを衝疝の病と名づけます。

そもそもこの症状は、逆気が心を衝いたためにおこるものです。心を衝くということを考えるとこれは、衝脉の病です。少腹から上るということを考えるとこれは、任脉の病です。《類経》の注に、衝脉・任脉を兼ねての病とします。一源三岐の意味があります。と述べられています。

督脉が少腹から上ると述べられているものは、任脉のことを意味します。任脉は、婦人の妊娠の本となる流れですので、これが病むときは女子は不妊となります。

督脉は陰器をめぐりますので、癃閉し遺溺するといった病となります。

臀部をめぐるため痔瘡となります。

その少腹から上って喉に入るために、嗌が乾きます。


正〔伴注:王の誤りか〕氏は、任脉は、女子がこれによって任養(はらむ)します。衝脉はその気を上衝させます。と述べています。以上は督脉の病として述べられていますが、一源三岐ですので、衝脉・任脉の病も互いに兼ねて現われるものとされています。 】




督脉の病を生じた場合には、督脉を治療します。治は骨上にあります。その甚だしい場合には、齊【原注:齊は臍と同じ】下の営にあります



【原注:以上のような督脉の病が生じた際には、督脉を治療します。督脉の治は横骨の上端、陰毛の際、任脉の曲骨穴にあります。もしその病状が甚だしい場合には、臍下一寸、任脉の陰交穴にあります。

「営」この字には衍文の疑いがあります。


督脉は任脉・衝脉の綱領であり、任脉・衝脉は督脉の別名でもあろうかと思います。どうしてかというと、《骨空論》で任督衝の三脉の行路を分けていますけれども、その治法を論ずる際には、ただ督脉の治法だけを述べて任脉・衝脉については触れていません。また、督脉を治療する際、じかに督脉を取らずに、任脉の穴を取っています。これは任脉は督脉に従うということを明らかにしようとする意図があるのではないでしょうか。 】




また曰く。督脉が病むと、脊が強ばり反折します。



【原注:督脉は脊裏に並んで上行しますので、これが病むと、脊が強ばり反張します。その反張が甚だしい場合には、脊が折れるほどです。これを反折といいます。 】







《霊枢・経脉篇》に曰く。督脉の病を生ずる場合、実するときは脊強ばり、虚するときは頭重く高くこれを揺らします。



【原注:これは、督脉の別絡のもの。邪気が実するときには、脊が強ばるというのは、督脉の別が背膂をはさむためです。もし正気が虚するときには、背膂の気が弱くなるため、頭を重く感じ、項の骨が(つたなく)して、頭を高く仰ぎ、顫揺します。 】




脊を挟んでここに過ちがある場合には、これを別れるところに取ります。



【原注:「過ち」とは、疾病があるという意味です。そもそも脊を挟んでいる経に過疾がある場合は、これを督脉の別れるところの長強穴に取ってこれを治療するということを述べています。 】







《二十九難》に曰く。督脉の病は、脊強り厥します。



【原注:厥は逆です。督脉は長強から上行しますので、病むと気が厥して逆上します。

王海蔵は、この病には、羗活・独活・防風・荊芥・細辛・藁本・黄連・大黄・附子・烏頭・蒼耳の類を用いるとよいと述べています。

張仲景は、脊強ばるとは、五(疒+至)の総名です。その症状は、急に口を閉ざしてすべて反張して瘈瘲します。諸薬を用いて癒えなければ、身柱・大椎・陶道の穴に灸しなさい。と述べています。 】







王叔和の《脉経》に曰く。尺寸ともに浮き、直ちに上り直ちに下るものを、督脉の脉状【原注:督脉の病脉】とします。腰背強ばり痛み、俛仰できないものは、大人であれば癲病【原注:癲癇】であり、小児であれば風癇【原注:驚癇】です。


また曰く。脉が来る際に中央が浮き直ちに上下に動ずるものは督脉の脉状【原注:督脉の病脉】とします。ややもすれば腰や背や膝が寒え、大人は癲、小児は癇の病に苦しんでいます。頂上に三壮灸するとよろしい。



【原注:これは百会穴のことであろうと思われます。

張仲景の《金匱要略》に、(疒+至)家の脉状は築々として弦。直ちに上下に行くと述べられています。王叔和はこれに基づいて、直ちに上下して動ずる云々ということを述べているのではないかと思います。 】










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