第 十七 難

第十七難




十七難に曰く。経に、病気になって死ぬものがあり、治療しなくとも癒えるものがあり、また長い年月にわたって癒えないものがあるとあります。その死生存亡を、脉診をすることによって知ることができるのでしょうか。


病には三種類あります。そのひとつは死病であり、治療しても癒えることはありません。ふたつめは軽病であり、治療しなくとも気が循環することによって自然に癒えます。みっつめは重病で、治療しても気血を調え難く、長期の病となっていきます。病症がいかに多くとも全てこの三者にすぎません。初一は死であり、二は生であり、三は存亡の繋る所です。死生は急で存亡は緩やかです。このような緩急は、病を診察し治療を施していく上で非常に重要なことです。《史伝》〔訳注:《史記・扁鵲倉公列伝》〕には六不治を掲載しています。巻尾に詳しく説明してあります。






然なり。全て知ることができます。


死生存亡はすべて診察していく中で知ることができます。






診察している時に、目を閉じて人を見ようとしないものは、肝脉で強急で長という脉状を呈しているべきです。けれどもこれに反して肺脉で浮短で濇という脉状を呈するものは死にます。


目というものは、見ることを好むことが常〔訳注:正常な状態〕です。見るということは陽気が開通して肝木が発揚する勢いがあるということを表わしています。肝が病む時は、陽気が欝閉して伸びやかでなくなるため、目を閉じて見ることを欲しなくなります。このような時は、陽気が抑鬱されている状態の脉状である、強急で長の脉状を表わします。けれどももし浮短で濇の脉状を表わす時は、気血が衰敗したために開通することができなくなって目を閉ざしているものなので、死にます。この脉状が強急で長のものは、問にある生と存とに対応しています。そして脉状が浮短で濇のものは、問にある死と亡とに対応しています。以下の條文も同じような対応関係で記されています。






目を開いて渇し心下が牢い病人の脉状は、堅実で数を呈しているべきです。これに反して沈濇で微を呈しているものは死にます。


人の目は開いたり閉じたりするのが常です。目を開けて閉ざそうとしないものは、火炎が上行して降下しなくなっている状態です。陽である火が甚だしい時は、陰液が涸れます、ですから口渇して水の陰の助けを借りようとします。心下が牢いのは、陽邪が心に凝滞しているためですから、陽旺の脉である堅実で数を表わすべきです。けれどももし沈濇で微の脉状を呈する場合は、真血が衰竭し孤陽が浮逆したためにこのような症状を呈しているものですから、死にます。






吐血し衄血する病人の脉状は、沈細を呈するべきです。これに反して浮大で牢の脉状を呈するものは死にます。


穀気が血に化して栄衛通行する状態は常です。もし邪によって犯されて血が逆し上竅に溢れると経脉に血が満たされなくなり、脉が減少して沈細となります。このような状態にも関らず浮大で牢の脉状を呈するものは、陰が敗れて陽邪が実している状態ですので、真血が出て竭し、死にます。






譫語し妄語する病人の身体には熱があるべきであり、その脉状も洪大を呈するべきです。けれどもこれに反して手足が厥逆し沈細で微の脉状を呈するものは死にます。


邪熱が甚だしい時は、上逆して肺を衝いて音が出、心を犯して正気が乱れますので、譫妄という症状を呈します。このような状態のものは、熱が皮膚を犯して身熱し、陽盛の脉状である洪脉を呈するべきです。手足は発動の原因となる所であり、諸陽の本ですが、この場所が反って逆冷し沈微の脉状を呈するものは、真気が衰敗して虚陽が浮散したためにこのような症状を呈したものです。ですから死にます。






腹が大きく泄する病人の脉状は、微細で濇を呈するべきです。これに反して緊大で滑の脉状を呈するものは死にます。


腹は全ての陰が集まる所です。陰気が滞る時は腹部は脹大となります。泄は潤下の象であり、下焦が固まっていないことを表わしています。全て陰の病ですので、微細で濇の脉状を表わすべきです。けれどもこれに反して緊大で滑の脉状を呈するものは、真陰が散亡して陽邪が実満している状態ですので死にます。


問いて曰く。治療しなくとも癒えるものと、長い年月にわたって癒えないものについて論じていないのはどうしてでしょうか。

答えて曰く。それはこの二種類が存亡の中に包含されているからです。陽病に陽脉を得、陰病に陰脉を得るものは順であり、気血がその常を得ているので生きます。これに反するものは逆であり、気血がその常を失っているため死にます。死生の要を知るということは、その陰陽順逆を知ることにほかなりません。第一難でなされた死生吉凶を決する法についての質問は、この難において語り尽されています。



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