下焦精蔵 第三十節 男女変声




始めて交会をすると、男も婦もともに声が必ず変わるのはどうしてなのでしょうか。

そもそも心気は降り腎気は上り、心腎両臓の気が上下に張って陰陽が平となり〔訳注:陰陽のバランスがとれ〕ます。ですから、男女まだ会さずに〔訳注:性交をせずに〕精をまったく泄らしていないうちは、上下の両臓が張り合っていますので、その声音を出すと清く高く響きます。けれども始めて交会して精を泄らすと下焦が疎通して、上下に張り合っていたものに偏勝がおこります。そのため音声が濁悪となるわけです。陰虚虚労の人はその声が嗄れて出にくくなるという理もまた同じことで、腎水が耗虚して、心腎上下の張り合いが失われるためです。鼓の上下の皮がよく張り合っていればその響きは清く高いですが、もし一方の皮が破れているものを拍つと、その皮の破れから泄れて音の響きも清らかではなくなるようなものです。

だいたい以上の深い論理に達した上で蔵象を考えるならば、人身において貴ぶべきものは、下焦精蔵にあることがわかります。ここが治療の枢〔訳注:中心〕であり、医学の要、素難〔訳注:《素問》《霊枢》《難経》という東洋医学の根本教典の略〕の奥旨です。



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