中焦穀府 第五節 消穀




中焦脾胃が水穀を消化する理由は何なのでしょうか。

俗説では、「これは人の家の茶臼のようなものです。脾胃は四肢を主ります。四肢は引き木のようなものです。脾は上の臼、胃は下の臼で、引き木を動かすと上の臼を動くようなものです。人の四肢の動きに従って脾臓が動いて胃の中の水穀がよく消化されるのです。」と言われています。この説には一々理があるようですけれども、まだ足りません。どうしてかというと、人が寝ていて四肢が動いていなくとも、飲食は消化され二便が通じるわけですから、手足の動きだけで消化するわけではないからです。

神は上に心に位置し、精は下に腎に位置します。陽気は神によって化生されて上に肺に舎り、陰血は精によって化生されて下に肝に舎ります。この気血が相互に升降して生を養います。脾胃は上下の中央にあり、気血が升降する際には中焦で交り、この気によって中焦の水穀が消化されます。







それでは、この気血を升降させるものは何なのでしょうか。呼吸の気によるものです。呼吸を出入升降させているものは何なのでしょうか。相火です。相火とは何のことを言っているのでしょうか。《素問・天元紀大論》には『君火は明を以てし、相火は位を以てします』と述べられています。

そもそも五行は、陰が三つあり陽が二つあります。水金土は陰で、木火は陽ですから、陰が勝ち陽が負けてしまい、発生が少くなります。ですから火には二気あって、君火と相火とに分けられているわけです。これによって陰陽が対に配され、造化が斉しくなるのです。君火は五行に相配されている火であり、日用の〔訳注:日々用いられている〕火です。相火は龍雷虚空の火です。

そもそも君は上であり丞相は下です。明の張景岳はこれを詳しく弁じています。君火は上にある陽です。相火は下にある陽です。上にある陽は離であり外にも明らかです。下にある陽は坎中の陽です。たとえば一寸の燈火で部屋中が輝くようなものは、君火の気です。炉に置かれた炭はその熱で物を熟させることができますけれども、光明がないのでこれは相火の質ということになります。

ですから君火は火の気であり、相火は火の質ということとなります。火の気は光明であり、物を熟させることはできません。火の質は明るさではなく、物を熟させることです。このため君火は上に位置して光明を発して天道を照らし、相火は下に位置して地を升降して万物を生み養います。人身における君火は神にあって神明を発し、相火は水中に蔵されて三焦を升降します。一年の内で夏の暑熱の時は、相火が升って地上に出、冬の涼寒の時は、相火が降って地下に入ります。

一年三百六十有五日に寒暑の気は六度環って四時に分かれ、万物が生長収蔵します。寒暑の気を環らさせるもとは相火によるものです。ですから相火の出入升降に従って寒暑が更互にめぐり、万物は生長収蔵するわけです。これが天地万物の消化の道です。人身における水穀の消化の道もまた、相火の出入升降によるものです。相火は上下三焦に遊行して、呼吸を出入させ気血を升降させます。相火が及ぶところは必ず熱します。呼吸や気血の出入升降が交わるところは、中焦脾胃の間です。その出入升降の交わるところはすなわち相火の及ぶところですから、中焦胃の腑は相火の出入によって常に熱しています。熱しているため物を腐熟させることができ、水穀はこれによって消化されるわけです。

冷たい物が胃を損なうのは、胃の中の熱を減らしてしまうためなのです。



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