五行の表情





五行論といえば木火土金水を思い浮かべる方が大半でしょう。これは前記した五臓の表情の具体的な表現なのですが、その内容については理解しにくいものです。そのため、四季と方位を考え合わせる中から、まず五臓の表情の豊かなイメージを概括してきました。

古代において、木火土金水は、どのように考えられていたのでしょうか。中国古代の聖賢の言葉を編集した漢代の歴史書に尚書があります。その言葉を基にして木火土金水を解釈してみましょう。



「木は曲直です」曲直とは、曲げたり真っ直ぐにしたりと加工しやすいという意味です。草木の若芽を考えると、外から加工しやすいということも理解しやすいですね。

「火は炎上です」炎上とは、燃え上がるという意味です。上に向かって盛に燃えている様子はまさに火の性質ですね。

「土は稼穡です」稼穡というは、農耕活動を意味します。鄭玄の注によると、これは、万物を化生させまた万物の帰する場所を意味するということです。東西南北の中央に位置し、春夏秋冬のそれぞれの季節に関わる土の性質がよく理解できます。稼穡を人に応用するなら、飲食物を消化吸収するという、生命を維持する基本的な機能を指していることがわかります。

「金は従革です」従革というのは、従順に改めるという意味です。金属が人の工作に従ってその形を改め有用なものとなるということからきていると、唐の孔穎達の《尚書正義》には注されています。余分なものを整理して自身の小さな器を自覚し人さまの役に立つように、思いを定める、などと人生行路における秋には考えます。昔の日本人は、秋と書いて「とき」決意したことを実現する時期、と読ませていましたが、まことに味わい深い言葉であります。決意し気を引きおろし身を清めて事にあたる、そんな時なんですね。

「水は潤下です」潤下というのは、流れ下り万物を潤し養うことを意味しています。《周易参同契》には、『水の流れは炎上せず、火の動きは流れ下りません』と述べられています。




産まれ出でた生命が〔注:木〕、いよいよ盛になり〔注:火〕、その傲慢を恥じて立ち位置を定め〔注:金〕、人々に余沢をもたらす(あるいは自らの根源に立ち返る)〔注:水〕。という人生行路が見えてきます。土は不断にその生命を支え続け、一日一日を生活している身体そのものと言えましょう。











一元流