虎口三関 by《鍼灸大成》




三関とは、手の示指の基節骨・中節骨・末節骨の内側部分のことである。

このうち、基節骨の部分を風寒と言い寅の位とし、中節骨の部分を気関と言い卯の位とし、末節骨の部分を命関と言い辰の位とする。







新生児は、五臓の血気がまだ安定していないので、呼吸数も非常に多い。ゆえに、虎口の色脉の状態をよく観察することが、病状を診断する要となるのである。

男児は左手を観察し、女児は右手を観察する。これは、左手が陽に属し男も陽を主とし、右手が陰に属し女も陰を主とするからである。

しかし、男女はもともと一つの全体としての身体を持っており、同じように陰陽を具えているのであるから、両手とも観察すべきである。

また、左手の紋は心肝に応じ、右手の紋は脾肺に応ずるというふうに診ていくのである。

このようなことを心得ていれば、虎口三関の診察法を自由自在に使っていくことができるようになる。







病にかかり初めの頃、紋が虎口に出る場合は、先ず風関に紅色で出る。それが伝わって気関に至ると色も赤や紫になる。病となってその色が紫青を越えるとその病熱が深く重くなっていることを表わしている。その色が青黒くなったり、青くて紋が乱れているような場合は、その病勢はますます甚だしくなっており、もし紋が純黒になっていれば、すでに非常に危険で治療することもできないような状態である。

また、紋が、風関に留まっているようなものは治療し易い。気関を越えてくるようなものは治療し難くなる。三関とも通して紋があるものは治療することはできない。古人が、「病を得て風関にあるものはまだ治療することができる。気関命関に伝入して留まると治療し難く久病となり易い。」と語っているのはこのことである。







紋の色が紅いものは軽い風熱であり、赤いものは風熱が盛んであり、紫のものは驚熱であり、青いものは驚積である。青と赤が相半ばするものは驚積と風熱とがともにあるものであり、急驚風のものに多い。青くて淡い紫で伸縮して去来するものは、慢驚風のものに多い。もし四足驚であれば、三関が必ず青くなっている。水驚であれば、三関が必ず黒くなっている。人驚であれば、三関が必ず赤くなっている。雷驚であれば、必ず黄色くなっている。青や紅の線のような紋が一直線にあるものは、乳食によって脾が傷られ発熱して驚となったものである。

左右が同じものは、驚と積とに同時になっているのである。三叉したり散じるような紋のものは、肺に風痰を生じたものである。また、鼻声になり青色の紋があるものは、傷寒によって咳が出ているものである。紅火のような紋が出ているものを瀉したために、紋に黒を兼ね、渇が加わって虚さず、虎口の脉紋が乱れるものは、気が和していないからである。

脉紋には黄・紅・紫・黒・黄紅の五色があるが、色だけで形が明瞭でないものは心配いらない。しかし、形があればそれは病脉である。その病が盛んになれば色脉も変化する。黄色が盛んになれば紅くなり、紅が盛んになれば紫になり、紫が盛んになれば青くなり、青が盛んになれば黒くなる。全くの黒になれば治療することが困難になってくる。

その形に関して弁じ分けると、以下の通りとなる。







一、 流珠


ただ一点に紅色があるものである。膈熱を主る。三焦が和さず、飲食に傷られ、吐瀉しようとし、腸が鳴り自利し、煩躁してひどく泣く。宿食を消すようにするとよい。脾胃を補う。







一、 関珠


流珠より大きい。脾虚による停食を主る。胸腹が脹満し、煩渇し発熱する。脾胃を健やかにするとよい。宿食を消して気を調える。







一、 長珠


片方の頭が大きくもう一方は小さい。脾が飲食に傷られていることを主る。積滞によって腹痛し、寒熱して食事をとれない。宿食を消して胃を健やかにするとよい。







一、 来蛇


下側の頭が粗大である。脾胃の湿熱を主る。中脘が利せず乾嘔して食事をとることができない。これは疳邪が内にあるためになっているのである。宿食を瀉すとよい。脾胃を健補する。







一、 去蛇


上側の頭が粗大である。脾虚による冷積を主る。吐瀉し煩渇し呼吸が短く神が困窮し、多眠となり食事をとることができない。脾胃を健やかにするとよい。積を消して先ず吐瀉を止める。







一、 弓形に反り裏に湾曲して中指に向かう


寒熱の邪気に感じたことを主る。頭目が昏重し、心神が驚悸し、倦怠し、四肢がやや冷え、小便が赤色であり、咳嗽し吐逆する。発汗によって驚を逐うとよい。心下を開き、脾気を高め肺気を落ち着かせる。







一、 弓形に反り外に湾曲して大指に向かう


痰熱を主る。心神が恍惚となって発熱し、驚と宿食とを兼ねる、風癇となる。紋が内側に向いているものは吉であり、外側に向いているものは凶である。







一、 槍形


風熱を主る。痰を発し搐{震え}をなす。







一、 針形


心肝の熱が極まって風を生じたものを主る。驚悸して突然悶え、ぐったりして食事をとることができず、痰が非常に盛んになって搐を発する。また、針は瀉痢を主るとも言う。







一、 魚骨形


驚痰発熱を主る。甚だしければ痰が非常に盛んになって搐を発し、食事をとることができなくなる。これは、肝気が非常に盛んになったために脾を剋したことによるものである。驚を逐うとよい。また、痰を吐かせ痰を下させるには、再び脾を補ったり脾を制したりするとよい。







一、 魚刺


風関にあれば驚を主り、気関にあれば疳を主り、命関にあれば虚を主る。治し難い。







一、 水字形


驚風食積を主る。煩躁し突然悶え食欲が減少し、夜泣きし、痰が非常に多く、口噤して搐搦する。これは脾気が虚して積滞し、木が土を剋したものである。また、水字は肺疾であり、驚風が肺に入ったものである、とも言われている。







一、 乙字


風関にあれば肝驚を主る。気関にあれば急驚を主る。命関にあれば慢驚脾風を主る。







一、 曲虫


肝の病の甚だしいものである。







一、 環のような形     腎に毒がある。
 曲がって裏に向かう  気疳を主る。
 曲がって外に向かう  風疳を主る。
 斜めに右に向かう   傷寒を主る。
 斜めに左に向かう   傷風を主る。







一、 勾脉


傷寒を主る。







一、 長虫


傷冷を主る。







一、 くねるような形


心虫が動いたものである。







一、 三関を貫いて指を射る


裏に向かって指を射ているものである。驚風を主る。痰熱が胸膈に聚まり脾肺を損傷し、再び痰熱が聚まったものである。脾肺を清するとよい。痰涎を化す。







一、 三関を貫いて甲を射る


外に向かって甲を射ているものである。驚風の悪症を主る。驚を受けて経絡に伝わり風熱を発したものである。十人のうち一人生きるかどうかというところである。







一、青白紫の筋が無名指の三関にあるものは治療し難い。中指の三関にあるものは治療し易い。







一元流
杉山流三部書