腹診





腹診は日本において発達しました。

腹部は腹腔内臓器の収まる場所ですから、まさに人身の根に体表から直接触れるような感じです。

西洋医学では深く腹部に手を入れて内臓を触れるようにするために足を曲げて診ますが、東洋医学においては内臓の状態が体表に反射して現われている状態を診ますので、ゆったりとリラックスした状態で足を伸ばして診ます。







腹診をする際に注意すべきことは、最初から深く触れてしまうと、こちらの手掌の感覚も鈍りますし、患者さん側の拒否反応も強くなり、診にくくなってしまうということです。

気の動きを診るということを心に覚悟して、繊細に繊細に触れていきます。

最初は、手をかざすようにして腹部全体を上空飛行させると、腹部から発せられる気の状態を手掌で感じることができるでしょう。この際、ぴりぴりちくちく冷え冷えとし、いやな感じがするものを邪気と呼んだりしています。この感覚を、実際に腹部に触れている際にも失わないように注意することがポイントです。そうすると、腹部に触れているときにも寒熱や邪気の存在などを手掌に感じ取ることができます。

触れる場合に、硬結を探す姿勢は不要です。塊がある場合は自然に手に触れてきます。動かない塊を積、動きやすいものを聚と呼んで区別しますけれども、堅くて動きそうにない場合でも、鍼をするとすっととれてしまうことがあります。ですから、細かいことは気にせず、大きく心の感覚を広げてつかむようにしましょう。

腹診は手掌で触れ、指の先端では触れません。患者さんは指を腹部につきこまれるとひどい違和感を覚え抵抗します。また、手掌で触れる際にも、腹部から浮いてくる気を手掌で感じ取るようにします。それを気の反射と呼んでいます。浅いところのものは特に意識をこめなくとも感じられますが、深部の状態を診ようとする時には、〔注:触れている手掌の重さは変化させずに〕意識を用いて深い場所の気の状態を感じ取るようにします。これは、中脘付近の状態や大巨関元付近の状態を探る際に非常に有効です。







夢分流腹診の図


この図は、弁釈鍼道秘訣集に掲載されている江戸時代の夢分流の腹診の図です。
私は基本的にこの図を基礎として腹診をしています。
けれども、だいぶ簡略化しています。
胃土・脾募・心・肝の相火・そして右腎の相火を右太巨・左腎水を左太巨として診ています。


基本的には全体のバランスを診るわけですけれども、よく出ているものとその評価としては、

心下部[膨満・詰まり・堅さ] 気の上衝

季肋部ことに不容から期門にかけての肋骨上によく診られる腫満。他の皮膚の感じよりも分厚く腫れた感じがするもの 湿痰が乗っていると表現し、脾胃の問題と関連付けて考えます。

中脘の深部における冷え塊。胃の問題。塊が取れにくい場合には胃潰瘍との関連。便秘。

中脘の冷え脹れ深部の空虚:脾虚

水分の深部における冷え塊。水分摂取との関連。水の捌きが悪い。

右期門深部の熱。肝炎。酒毒。双方とも新しい。昨夜の酒の呑みすぎとか。

左期門の深部の熱。膵炎。脾の陰虚による熱。食べすぎ。やはり新しく取れやすい。

〔注:「新しい」とあるのは、手掌に感じる感覚が、元気で新鮮な感じがするというという意味です。〕

左右太巨の冷え:腎との関連:腰痛の反応:膝関節疾患との関連:下焦の問題。浅くは診えず深く意識を用いると診やすい。

左右太巨の熱:卵巣関連の炎症:虫垂炎

少腹急結:瘀血。肝との関連。骨盤のゆがみ?ねじれ?骨盤に向けてやや手掌の尖を突きこむようにして診る。これがある人は飛び上がるほど痛みますので、乱暴に行わないようにしましょう。

肝の相火:腫れ堅いつっぱり弱り;肝の虚実、左右のバランスの問題。

関元:薄い冷える深く穴が開いている。深い溝となり土手が堅く筋張っている。邪気が良く出ている場所で、手を長いこと触れ続けていると疲れることがあります。生命力の根元の虚。ここの虚と心下部の実とが組み合わさっていれば、下虚上実ということになります。生命力全体がひどく虚しているということではなく、上に偏ってしまったので下が相対的に虚していると考えます。これに対して全体が虚している中でここがさらに虚している場合には、生命力が全体的に虚していると考えます。

臍は腹部の樞紐であり、その偏りは気の偏在を現わします。引っ張られている方の土手が低くなります。

臍周が堅い盛り上がっているついには緩んでいるものは、気の使いすぎでの疲れであると考えます。







以上、気がついたところだけ著してみました。







腹証奇覧腹診の図



これはやはり江戸時代の書物である腹証奇覧の中から取ったものです。
傷寒論の六経弁証に基づいて処方を決めているため、このような六経の配当がされています












一元流