治療指針:生活提言


骨盤内の冷えの弁証論治
病因病理:弁証論治




病因病理



この患者さんが今までで大きく身体の調子が悪かったのは、結婚して専業主婦をしていた時期である。症状としては、元々便秘がちなほうだったのに下痢をよくするようになったり、突然吐き気がして吐いたり、目眩がして倒れたりするようになった。本人も一人で家にじっと籠もっているのがとてもストレスだったというように、これは肝鬱がかなり激しく出て肝風(目眩)が起こったり、肝気の横逆もきつかったために時には下痢したり、時には吐いたりしたものと考えられる。これらの症状がパートをするようになってピタッと無くなっていることからも、肝鬱によるものであったと考えられる。







この結婚して家に居るようになった時期から今の主訴である骨盤内の冷えが、臀部の冷えとして現れ始めるようになる。この冷え感だけは仕事を再開しても無くならなかった。

その後、卵巣嚢腫の手術、排卵誘発の注射と身体に負担を掛けてしばらくしてから、下腹部の冷え、鼠径部の冷えと、冷えを感じる場所が増えていっているのが窺える。そうすると、これは下焦、つまり腎の虚損、陽虚が進み、現れている症状とも考えられるが、数回にわたる鍼灸治療において下焦を重点的に温補しているにもかかわらず、治療の帰りの車の中で冷えを感じるということは、この冷えは腎陽虚が中心でない可能性が大きい。

次の可能性として肝鬱が考えられる。専業主婦になって急に体調が悪くなった時期から臀部に冷えを感じ始めていること、夜横になったときや車や仕事で座っている時に冷えを感じること、動いていると気にならないこと、排卵誘発を使った時期は生理前に痛みだけでなく冷えも感じていること、沖縄に行っている間は冷えを感じなかったことなどを考えると、この骨盤内の冷え感は肝鬱による下焦の気滞が強く関係していることが窺える。







元々便秘がちだったり、よく悪夢を見たり、寝付きが悪いことがあったりと、素体として肝鬱傾向があると思われる。しかし、仕事をするのはストレス解消と本人が言うように、仕事を始めてひどかった肝鬱の症状が無くなり、鍼灸治療をすると便秘がちなお通じがつくようになり、睡眠もよくなることを考えると、気滞は随分と良くなっているにも拘わらず、骨盤内の冷えは変わらないということは、気滞のみが冷えの直接の原因とも言い難い。

ここで、身体の状態を診ると、右関上の脈が沈んで、曇ってる感じ(脈力はあるが輪郭がはっきりしない感じ)、中カン~神闕の薄い感じ、左足三里の弛み大きめ、右膵兪~右脾兪の筋張り、左脾兪の弛み、左胃兪の弛んで陥凹深い、右胃兪の弛みというように、脾気の弱りが窺える。結婚して仕事を再開してから、職場でお菓子を食べる機会が増え、最近では間食は控えるように気をつけているものの、口寂しさを紛らわすため、お茶を多く飲んだり、飴やガムを食べたりと、脾気を傷め続ける状況は続いている。

つまり、この脾気の弱りにより湿痰が生まれ、それが下焦に滞っているのではないかと考える。ただ、舌苔や脾募の感じからその湿痰は量としてはまだそれほど多くはないと思われるが、座ったり、横になったりして身体の動きが無くなると、下焦の気滞が強くなり、湿痰の存在が強化され、「冷え」として意識されるのではないかと考える。肝気の疏泄状態がいい沖縄滞在中には、カラッとした天候も相まって、下焦の冷えは感じなかったのではないかと思われる。







20代の頃は足のむくみがひどかったことや、今も夜にはむくんでいるせいか足がだるくなったりと、もともと水液の運化が良くないと思われ、結婚前に徐々に体重が減っていることから、この時期に何らかの脾気の低下があった可能性が考えられる。その脾気が落ちて内湿が生じやすくなっているところに、肝鬱が強く影響して、下焦の水湿の捌きが悪くなり、臀部の冷え感として現れ始めたのではないかと考える。この専業主婦の時期に下痢が多かったというのも、肝気犯脾に内湿が絡んでいたためとも考えられる。

そして脾気の虚損と肝鬱による内湿の停滞が下焦に現れやすくなっているところに、卵巣嚢腫の手術やホルモン注射により更に下焦がダメージを受けて、徐々に冷えの範囲が広がっていると考える。

ただ、ここで手術や注射のダメージを下焦という場所だけにし、腎への影響に言及しなかったのは、パートを始めて体力的にきつくなっているものの冷えの感じ方に変化が無く、手術の前後における体調にも変化が無いことから、まだ腎気の虚損までには及んでいないと思われ、下焦という部位だけの弱りと考えるからである。




弁証論治



弁証:脾虚、寒湿留着下焦

論治:健脾、去寒湿、温補下焦







主訴:問診

時系列の問診

切診

五臓の弁別

病因病理:弁証論治

治療指針:生活提言











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