この方は、7歳で盲腸の手術をしたものの、10歳には月経が始まっており、 わりと順調に腎気を養うことができていたと思われる。 結婚・妊娠・出産・育児も、記憶に残るような体調不良はなかったようだ。
48歳で給食の仕事を始め、50歳では勤務時間が長くなり、少しずつ身体への 負担が増えていった。そして54歳で乳がんが発覚し手術、放射線・抗がん剤 治療と心身へ大きなダメージを受けた。仕事は辞めたものの、母・義母の お世話や、自身も旅行に行く等、忙しく活動的な生活をしていたようだ。 このあたりから腎虚が進んでいったと推測される。
58歳では孫が生まれ、よく預かるためさらに忙しくなり、抱っこ等で 身体への負荷も高くなった。この頃から日常的に右腰が気になるように なった。中腰の体勢が続くと痛みが出るのは、腎虚により膀胱経に症状が 出やすくなったためと考える。休めば治るが根強く続いていることからも 臓腑病が大本の原因と思われる。
同じ頃、左足裏にタコができており、身体バランスの左右差がきつくなった ようだ。疲れた身体を意志の力で動かし支えるため、頑張りやすい場所は より頑張り、弱い場所はより弱くなり、偏りがきつくなるのではないだろうか。
また、寝返りもできないほどの腰痛は、動くために気を集めようとして、 気が集まりすぎて強張ってしまい、激しい痛みが出たのだと思われる。 腎虚肝鬱がかなりきつくなっていたのだろう。
その後も母の骨折による介助や、さらに二人増えた孫たちの世話が続き、 腎虚は深まっていった。
62歳では風邪をこじらせて肺炎になって、肺炎自体は点滴で治ったとの ことだが、これ以降風邪を引いていないという本人の発言と、切診での 上背部の反応から肺気の困窮がうかがわれ、風邪を追い出しきれていない (風邪の内陥)可能性が考えられる。
そのような状態でも、大腸がんの術後は経過も良く、便通も入院中に普通に 戻ったとのこと。この方は、これほどの腎虚・気虚になっていても便通には 問題が出ないようだ。脾器が丈夫であると思われるが、切診情報からは脾気に 負担がかかっていることが推測されるため、注意が必要である。
症状が出にくく本人が不調を自覚しにくいため、無理をしやすい身体のように 思われる。しかしながら、食欲もあり、消化もでき、睡眠もとれるというのは 養生をする上では大切な柱であるので、生活を調えれば回復しやすいと考える。
弁証:腎虚を中心とした気虚 風邪の内陥の可能性
論治:補腎・補気 風邪を追い出す手伝いをする
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