王旭高の治肝三十方





治肝というのは、肝の治し方というほどの意味です。つまり、肝の治し方 を三十種の角度から包括的に考えて説いたものです。この論文は湯液を中心に述べられておりますので、それを鍼灸に置き換えて考えていくときには、少々コツが必要となります。







たとえば、疏肝理気をみると

『゙疏肝理気:肝気が自ら肝経に郁したもので、両脇が気脹したり痛ん だりする。疏肝するとよい。香附子・欝金・蘇梗・青皮・橘葉の属が よい。寒を兼ねるものには呉茱萸を加え、熱を兼ねるものには牡丹皮 ・山梔子を加え、痰を兼ねるものには半夏・茯苓を加える。』

とあります。

これを原文通りに読むと、肝気が自ら肝経に郁しているとあるの だから、肝経の中で郁している穴を使うというのが基本になります。

ところが使っている薬物を見ると、香附子(辛・微苦・微甘・平:肝・三焦 :疏肝解欝・理気止痛・調経)・欝金(辛・苦・寒:心・肺・肝・胆:疏 肝解欝・理気止痛・活血化瘀・清熱涼血・清心開竅・利胆退黄)・蘇梗 (以下、紫蘇より、辛・温:肺:降気平喘・止咳・消痰・寛胸:蘇梗は紫 蘇よりも健胃作用が強い)・青皮(苦・辛・温:肝・胆:疏肝破気・散積 化滞)・橘葉(不明)とあるので、ここでは寒熱取り混ぜてまず語ってい ることがわかります。そして、蘇梗に目が行きますね。肺気を借りてある いは、脾肺の気を充実させることも疏肝理気の概念には入っているのかと。

次に、その変化をみます。寒を兼ねるものには呉茱萸(辛・苦・熱・小毒 :肝・腎・脾・胃:散寒止痛・下気止嘔・疏肝下気・止瀉・殺虫)、厥陰 の寒を取ると言われる常法です。そして熱を加えるものには牡丹皮(辛・ 苦・寒:心・肝・腎:清熱涼血・止血・活血化お・清虚熱)・山梔子(苦 ・寒:心・肝・肺・胃:清熱瀉火・涼血止血・燥湿解毒・除煩)とありま す。

やっぱり熱がこもるということは心が問題なんだな、とか、清虚熱、 虚熱を清するとあるのだから、虚熱はすなわち陰虚による熱ということを 指し、牡丹皮を用いるということは、単に清熱だけではなく陰を補うとい う発想も裏にはありそうだなとみます。

さらに、痰を兼ねるものには半夏 (辛・温・有毒:脾・胃:降逆止嘔・燥湿化痰)・茯苓(甘・淡・平:心 ・肺・脾・胃・腎:利水滲湿・健脾・安神)とあります。

まず証として疏 肝理気をあげているのに、痰が絡むものをそこに含め、健脾薬を用いてい るということは、この痰の絡みが肝の横逆だけによる脾胃の弱りとは把えてい ず、本来の脾胃そのものを触っていかないと治せないものと考えているん だということが判ります。さらに辛温の半夏を使うと書かれているという ことから、痰の絡みには温薬を用いる方が効果ありか、と。

大体こんな具合に読んで、基本的には気の偏在と、五臓どれを中心とする のかということ、そして寒熱・表裏の問題に対する湯液家の取り組み方、 さらに邪がある場合の処理の仕方を読み取っていきます。あとは、それを 目処にして体表観察を行ない、それに従って穴を決定し、穴に対してしか るべき処置をしていくわけです。







さて、王旭高は、清代末期の名医で(1798年頃~1862年)江蘇省の人で す。多数の著書のうち、これから紹介する治肝三十方は《西渓書屋夜話録 ・肝病証治》に記載されているものです。その中では、肝の病について大 きくは肝気・肝風・肝火に分けられており、そのそれぞれについてさらに 分類されて記載されています。この肝の病の治療法は、現代中医学にも大 きな影響を与えているもようです。

彼は語っています、『肝気・肝風・肝火という三者に分けてはいるが、同 じ原因のものに三種類の名前を付けているにすぎない。この肝の病には侮 脾乗胃・衝心犯肺・挟寒挟痰・本虚標実など多くの種類がみられる。その ため肝の病は非常に複雑で、その治法も非常に広範にわたるのである。』 と。









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