痛経の弁証






弁証のポイント



痛経の弁証においては、まず痛みの質を弁別しなければなりません。 痛みの質を弁別した上で、一般的には、月経の状態と月経周期の状態とを 勘案して虚実を判断し、兼証〔訳注:同時におこっている症状〕と兼ね合 わせて疼痛の程度を判断します。また、素体の状況についても参考にする 必要があります。この外、疼痛の部位を明確にすることによって、気にあ るのか血にあるのか肝に属するのか腎に属するのかということを調べ、疼 痛の性質を兼ね合わせて考えていく中からその証を明確にしていく必要が あります。

これらの作業は、一つの項目に拘泥することなく、全面的に考え合 わせることによって、常と変とを分析して臨機応変に行なっていく必要が あります。その上で、その病態の本質的な状態を洞察し、証を明確にして いくわけです。




虚実を明確にする



痛みの状態と月経の状態に基づいて 虚実を明確にする

《丹渓心法》には、『月経が終わろうとしている時期に痛みが出る ものは、気血ともに虚しているものである。』これは、『虚中に熱がある ために痛みが出るのである』とあり、『月経が来ようとしている時期に痛 みが出るものは血実である。』『月経の最中に腰痛や腹痛がおこるものに は、郁滞によるものや瘀血によるものがある。』と記載されてい ます。

《景岳全書・婦人規》には、『月経時の腹痛には、その証に虚のも のと実のものとがある。・・・(中略)・・・実痛のものは、月経がおこ る前に痛みが出る場合が多く、月経が終わるにつれてその痛みは減少する。 虚痛のものは、月経が終わるころから痛みが出る場合が多く、経血が出終 わっても痛みが止まららなかったり、経血が出終わるとさらに痛みが激し くなる。』と記載されています。

《女科経綸》には、王海蔵の言葉を引用して、『月経がおころうと している時期に臍腹が絞られるように痛むものは、血が渋っているためで ある。』とあり、また戴元礼の言葉を引用して、『月経がおころうとして いる時期に腹痛が起こったり、おこっていない場合にも痛みが出るものは、 ともに血の調和がとれていないためである。』と記載されています。

《伝青主女科》には、『月経が突然おこり突然止まり、時に痛み時 に止まるもの』『月経がおこる前に腹痛がおこるもの』『月経前の腹痛』 『月経がおころうとする時期に臍下に先に腹痛がおこるもの』は実に属し、 『月経が終わる頃に少腹部に疼痛がおこるもの』は虚に属すると記載され ています。

《医宗金鑑》ではそれまでの説を総括して、『月経が終わる頃に腹 痛がおこるものは気血の弱りであり、月経前に痛むものは気血の凝滞であ る』と記載されています







これらの記載はすべて、痛経の弁証をする際に、月経の状態と組み 合わせてその虚実を弁別しようとしているものです。この考え方は、現在 の臨床においても遵守されているものです。この外、月経の周期・量・色 ・質の変化もまた、痛経の虚実を弁別していく際に常に重要な参考資料と なります。もし月経周期が正常でありながら、その量が減少し・色が暗く なり・質が薄くなり・痛みが月経の終わる頃におこるものは、多くは虚に 属します。またもし量が減少し・質が粘稠となり・塊が出・痛みが月経前 におこるものは、多くは実に属します。さらに痛みの質を考えたり、拒按 かどうか、脉や舌の状態はどうかといったことに基づいて虚実を弁別して いきます。たとえば、苔が黄膩で・脉状が滑数で・疼痛して按じられるこ とを拒み・月経周期が長引いているようであれば、これは湿熱を患ってい る徴候であると考えるのが普通です。




痛みの程度を明確にする



痛みの状態と兼証の状態から 痛みの程度を明確にする

痛経における疼痛の程度は、非常に推測しにくいものです。臨床的 に疼痛の程度を考える場合には、それに随伴する症状によって推測するの が普通です。たとえば、疼痛に伴って手足が厥冷し・唇が青くなり・顔面 が蒼白となり・冷や汗がだらだら出・悪心嘔吐し・寒熱往来するようなも のは、その疼痛も重いものであると考えます。さらに重症になると、虚脱 状態になったり、昏厥したり〔訳注:気絶したり〕します。

月経の時期には陰血が下に盛んになり、衝脉の気が上逆し易くなり ます。この状態に疼痛が加わるわけですから、その気はますます乱れ、血 はますます結し、上逆した衝脉の気が胃を犯し【原注:衝脉は陽明に付着 します。また胞脉は胃口を絡います。】、胃が和し降ることができなくな りますので、嘔吐を伴った痛経となるわけです。疼痛がますます激しくな ると、気血の阻滞もそれにつれて激しくなりますので、陽気が宣達しなく なる〔訳注:のびのびと循らなくなる〕ため、顔面蒼白・四肢が冷え・冷 や汗がだらだら出るといった痛経となります。疼痛が非常に激しくなれば、 「四肢が厥冷し気が上逆して泄れ」「陽気が入らない」状態となって、忽 然として気絶するような痛経となります。




素体の状態を参考にする



痛みの弁別には素体の状態も参考にする

もともと抑鬱状態にある場合は、気滞による痛経をおこし易いもの です。もともとその体質が虚弱な場合は、虚痛をおこし易いものです。も ともと帯下が汚れていることが多い場合、痛みが出るものの多くは湿が滞 っていることによる痛経です。もし帯下の色が異常で匂いもあることが多 い場合、月経時期に痛みが出るものの多くは湿熱が蘊結したことによる痛 経です。




痛む部位から病位を判断する



痛む部位から、それが気にあるか血にあるか 肝に属するか腎に属するか明確にする

肝経は、陰部を循り・少腹の両側を過ぎ・胃口を経て、肝に属し胆 を絡います。もし痛みが少腹の片側あるいは両側にある場合は、多くは気 滞に属し、病位は肝にあります。もし痛みが小腹の正中にある場合は、多 くは血滞に属します。

腎経は、会陰を上り・腹部を経て・腰脊を貫きます。胞絡は子宮の 脉絡に連なり属し、子宮は腎に係ります。もし小腹の正中に虚痛があり、 それが腰脊まで及ぶ場合、その多くは腎に病位があります。




痛みの性質から寒熱虚実を考える



痛みの性質から寒熱虚実を考え 気の病か血の病かを明確にする

隠痛〔訳注:じくじくとした痛み〕・癘痛〔訳注:不明〕 ・墜痛〔訳注:重い痛み〕で喜按のものは虚に属します。掣痛〔訳注:抜 けるような痛み〕・絞痛〔訳注:絞られるような痛み〕・灼痛〔訳注:焼 けるような痛み〕・刺痛〔訳注:刺すような痛み〕で拒按のものは実に属 します。灼痛で、温めると痛みがさらに激しくなるものは熱に属します。 冷痛で、温めると痛みが減るものは寒に属します。非常に痛んで、脹るも のは血瘀に属します。非常に脹って、痛むものは気滞に属します。 時に痛み時に止まるものは気滞に属します。痛みが持続的に出ているもの は血瘀に属します。




まとめ



以上述べた弁証方法のすべてを、全面的に参考にすることによって、 どの証に属するものであるかということを明確にしていきます。たとえば、 月経前に痛み・絞痛・拒按・温められることを喜ばず・経血の色が紅・質 は粘稠で・血塊があり・もともと怒り易く・脉状は弦・舌苔は黄のもので あれば、実に属し・熱に属し・瘀に属すものであり、肝郁化熱に よる痛経であると理解できます。

けれども、《景岳全書・婦人規》には、『おおむね按ずることがで き揉むことができるものは虚であり、按じられることを拒み揉まれること を拒むものは実である。滞りがあるかどうかということはこのことから判 断することができる。しかし、実の中にも虚のものがあり、虚の中にもま た実のものがある。これは形気稟質〔訳注:全身の総合的な状態〕をとも に考え、これを弁別していかなければならない。』『たとえば按ずること ができるか按じられることを拒むか、月経前に痛むか月経後に痛むかとい うことによって、虚実を弁別することが、もとより大法である。しかし、 気血がもともと虚していて血が循ることのできないものにもまた、按じら れることを拒むものがあり、月経前であってもこのような症状を呈する場 合がよくある。これは、気虚によって血が滞り、経血を流す力が少なくな るためにおこる症状である。』と記載されています。ですから弁証に際し ては、あらかじめ総合的に分析することによって、その病状の変化法則を 掌握するということが、病を正確に把握していくうえでもっとも重要なポ イントとなるわけです。









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