痛経の論治






治療原則



衝脉・任脉・気・血を調えることが中心となります。それぞれの証 に基づいて、行気・活血・散寒・清熱し・虚を補い・実を瀉します。また 治療にあたっては、二種類の方向性があります。つまり、月経時期には調 血止痛を主眼として標を治療し、平常時には弁証に基づいて原因を究明し て本を治療するわけです。また同時に、素体の状態に基づいて、調肝・益 腎・扶脾することによって気血を調え、衝脉・任脉を流通させて経血がの びのびと流れるように配慮します。このようにすると、痛経の心配はなく なります。




用薬における禁忌と養生法



月経の時期には滋膩・寒涼の薬物を用いないようにします。これに よって、血を滞らせる心配から逸れることができます。月経の時期には衛 生に注意を払い、刺激の強い食物や生ま物や冷たい食物を避けます。また 体質を鍛練によって強くし、精神修養をしましょう。冬期には冷えないよ うに注意し、夏期には冷たいものを摂り過ぎないように注意しましょう。






証候と証候分析




気滞血瘀



月経前あるいは月経の時期に少腹部が脹痛し・拒按・経血量が減少 しあるいはすっきりと出ず・経血の色が紫暗で塊があり・血塊が出た後に 痛みが減ります。その舌質は紫暗で瘀点があり、脉はあるいは弦 あるいは滑を呈します。

もともと肝気が盛んで、やや抑鬱状態であり怒り易いため、肝気の 調和が取れず条達しなくなり、気機が暢びやかではなくなるために、経血 が瘀滞します。そのため、月経前あるいは月経の時期に少腹部が 疼痛し・拒按・経血量が減少しあるいはすっきりと出ず・経血の色が紫暗 で塊があるという状態になります。血塊が出ると気血がしばし通じますの で、疼痛がやや減ります。舌質は紫暗で瘀点があり、脉はあるい は弦あるいは滑を呈するといった徴候は皆な、気が滞り血瘀があ ることを示しています。




寒湿凝滞



月経前あるいは月経の時期に小腹部が冷えて痛み、温めるとその痛 みが減少します。経血の色は暗紅で瘀塊があり、あるいは経血が 黒豆の汁のような状態で、寒を畏れ・手足に暖かさがなく・舌苔は白で潤 いあるいは膩苔で、その脉状は弦あるいは緊あるいは滑です。

もともと陽虚であったり・寒涼の食物を摂り続けていたり・風冷を 受けることによって子宮にそれが客したり・月経の最中に誤って生冷の食 物を摂取したために内が寒に傷られたりすることによって、寒湿が子宮に 凝集し、その寒邪によって血が暢びやかには動かなくなるため、月経前や 月経の時期に小腹が冷えて痛み、経血の色が暗紅となり瘀塊が出 るようになります。寒は温められることによって化し、凝滞しているもの もしばしの間通じますので、温められるとその痛みは減少します。経血の 色が暗紅・寒を畏れる・手足に暖かさがない・舌苔が白で潤いがあったり 膩苔であったりし・その脉状が弦あるいは緊あるいは滑といった徴候は皆 な、寒湿が凝滞していることを示しています。




湿熱瘀血



月経前に小腹部が脹痛し・拒按・腰骶部の脹痛を伴い・小腹 部に灼熱感があり・微熱があります。経血の色は暗紅で・その質は粘稠で 塊があり・熱感があります。また月経が不順になり・帯下が黄色く粘稠で ・小便は短赤です。舌質は紅で苔は黄あるいは膩、その脉状は弦数あるい は滑数となります。

この症状のものの多くは、産後・堕胎後・小産〔訳注:早産〕後に おこります。また月経の時期に胞脉の正気が虚しているときに、生理用具 が不潔であったり・房事を慎まなかったりすることによっておこります。 これらの要因の下、湿熱の邪が虚に乗じて内を犯し、下焦に欝滞して、衝 脉・任脉の運行を阻むことによって、月経前の血海の気血が比較的盛んな 時期に、湿熱と血とが互いに結びついて瘀が形成されることにな ります。そのため、下腹部に脹痛を感じ・拒按・あるいはその痛みが腰 骶部にまで達し・経血の色が紫暗となり・その質が粘稠で塊が出・ 熱感があり・小腹部に灼熱感を覚え・甚だしい場合は微熱が出ます。湿熱 によって内を乱され、衝脉・任脉の機能が乱されるため月経が不順となり、 湿熱が下に注ぐため帯下が黄色く粘稠となり・小便が短赤となります。舌 質の紅・舌苔の黄あるいは膩・脉状の弦数あるいは滑数といった徴候は皆 な、湿熱が内に欝滞していることを示しています。




気血虚弱



月経量が少なく・経血の色は淡く・経血の質は薄く澄んでいます。 月経が終わる頃に小腹部がじくじくと痛み・眼神が弱り疲労感があり・食 欲がなくなり・下痢便し・顔色は蒼白あるいは萎黄で艶がなくなります。 その舌質は淡で、脉状は細あるいは無力となります。

もともとその体質が虚弱で、気血が不足しており、血虚があるため に月経量は少なく経血の色は淡く薄くなります。月経が終わる頃には、血 海が空虚になり、胞脉が養われなくなりますので、小腹部がじくじくと執 拗に疼き痛みます。気が虚していて陽気が充実していないため、眼神が弱 り疲労感があります。水穀を運化し腐熟することができなくなりますので、 食欲がなくなり下痢便となります。血が虚して上に顔面を映えさえなくな りますので、顔色は蒼白あるいは萎黄で艶がなくなります。その舌質は淡 で、脉状は細あるいは無力といった徴候は皆な、気血両虚であることを示 しています。




鍼灸治療



合谷・関元・三陰交に鍼あるいは灸します。 耳鍼では、子宮・腹内分泌・交感といった穴を使用します。 湿熱の証のものには、関元に灸することは避けます。









一元流
婦人科学 前ページ 次ページ