月経前後の諸症の状態と診断






臨床表現



現在、臨床的によく見られる症状は、経行乳脹・経行泄瀉・経行頭 痛頭暈・経行浮腫・経行発熱・経行身痛・経行口舌糜爛・経行便血などで す。そのそれぞれの状態について、以下に列挙しておきます。


経行乳脹:月経前二三日あるいは甚だしい場合は半月前後の時期に なるといつも、乳房が硬く脹って疼痛したり、硬結が出たりします。さら に甚だしい場合は、乳房を衣服に触れることもできなくなります。しかし 月経が終わると痛みは徐々に減少し、乳房も軟らかくなり、硬結もなくな ります。

経行泄瀉:月経時期になるといつも下痢をするものです。その回数 や量の多少については個人差があります。下痢のもの・水様便になるもの ・消化不良便になるものなどがあります。下痢の時には小腹部に疼痛がお こります。月経が終わると止まります。

経行頭暈頭痛:月経前の数日間あるいは月経の時期になるといつも、 めまいがして倒れそうになったり・目が眩んで心臓に圧迫感があったり・ 非常に激しい頭痛がおこって耐え難かったり・心煩して失眠となったりし ます。月経が終わるとこのような症状はなくなります。

経行浮腫:月経前や月経時期、あるいは月経が終わってから二三日 の間、顔面や四肢に浮腫がおこり、これを圧すと陥凹します。また倦怠感 や無力感・食欲が減少して下痢し・腹部に脹満感を感じ・四肢が重く感じ るといった症状を伴います。

経行発熱:月経時期や月経前後に発熱症状を呈するものです。この 発熱の多くは微熱や午後の潮熱であり、その熱も一般には高くはなりませ ん。月経が終わると自然に治ります。

経行身痛:月経の前後あるいは月経の時期に、四肢や体幹の節々が 痛んで我慢できないほどになるものです。また、四肢や体幹に痺れたを感 じたり・重だるい痛みを覚えたり・筋肉が硬くひきつれるような感じがし たりします。月経が終わるとこのような症状はなくなります。

経行口舌糜爛:月経時期や月経の前後になるといつも、舌辺に潰瘍 ができて痛み、飲食に影響が出るほどになります。しかし月経が終わると 治療しなくとも自然に癒えます。

経前便血:月経前一二日になるといつも血便をします、経血の量は 比較的少なくなります。古人はこれを、経血がまちがって大腸に走ったも のであると考えました。そのため、「錯経」「差経」などと呼ばれていま す。


この外に月経時期にみられる症状は少なからずありますが、そのい ちいちを列挙することはしません。




診断と鑑別診断



月経前後の諸症は非常に多種にわたっており、その状態も非常に複 雑です。そのため、注意を怠っていると、内科的な疾病と混同することが あります。ですから、ここでの診断のポイントは、『月経周期にしたがっ て発症する。月経時期【原注:あるいは月経前】におこり、月経が終わる となくなる。』という一点にあるのだということをよく頭に入れておいて ください。症状がおこるということと月経周期との間に密接な関係がある ということです。もし同じような症状が平生の時に現われたり・月経時期 にたまたま罹患したものであったり・月経周期と関係がないようであれば、 月経前後の諸症に属するものであるとは、考えません。









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