閉経前後の生理




女性の一生においては、その加齢にしたがって、それぞれの年齢 で特有の生理的な特徴が現われますが、このことについては早くも《内 経》の中ですでに論じられているところです。その中でも二回大きな過 渡期があり、その時期には生理的な変動によって特有の現象が現われま す。ここではそのうちの老年期にいたる時期に明瞭に現われる現象につ いて述べます。この過渡的な時期には、主として生長能力の低下が見ら れ、月経も徐々におこらなくなり、あるいは乱れてついには閉経にいた ります。そのため、この時期を特に閉経前後の時期と名づけ、更年期と 呼びます。




1、閉経〔訳注:原文では経断〕の年齢



人体の自然の衰えは、徐々におこってきます。これは、個々の女 性の先天的な資質による違いと、後天的な条件による違い【原注:栄養 状態・嗜好・生育状況・疾病・職業など】によって、その閉経前後に現 われる生理的変化状況・おこり始める年齢・持続期間、がそれぞれ異な ってきます。中国における二千年前の記載によると、閉経の年齢は49 才となっています。最近の学者による、広東地区40才以上の女性33 64例に対する調査によると、838例に自然の閉経がおこっており、 その平均年齢は47.81才+-3.97才となっています。また、ア メリカやイギリスにおける統計的な平均年齢は51才です。一般的に閉 経の時期が始まる年齢は45才前後であり、だいたい2~3年で自然に 閉経となります。閉経後さらに6~8年でその女性は老人の仲間入りを します。ですから、閉経の時期と呼ぶことができる期間は8年~12年 続くことになり、その年齢は一般的に45才~55才までの間というこ とになります。40才以前に閉経がおこるものを早発絶経と名づけ、5 5才以降に閉経がずれこむものを晩発絶経と名づけています。




2、閉経時期の生理現象とその理由



中国医学においては、人体の生長発育およびその盛衰の変化は、腎気に よって主宰されていると考えます。ですから女性の閉経前後の時期にお いても、腎気の自然の衰退がその生理的な一系列の変化をおこしている と考えます。つまり、腎気が徐々に衰えていくことによって、天癸が竭 していき、衝脉・任脉が衰えるため、月経が乱れ始め、徐々におこる回 数が少なくなり、ついには閉経にいたると考えるわけです。生長能力が 衰えあるいは失われるため、女性特有の器官も萎縮し始めます。腎はま た骨を主り、その華は髪にありますから、この時期になると白髪が増え たり髪の毛が脱け易くなり、腰脊や歯がじわじわと痛み始めます。さら に腎は精を蔵し陽の舎る場所であり五臓六腑の本ですから、腎が虚する と陰陽のバランスを崩し易くなります。そのため、肝の体が養われにく くなり・心陰も養われにくくなり・脾陽がその温煦の作用を発揮しにく くなります。ですから、高熱を出したり・汗が出たり・煩躁して怒り易 くなったり・記憶力が低下したり・痞満や〔訳注:腹部がつかえたり張 ったり〕(ロ愛)気〔訳注:げっぷ〕がおこったり・下痢や便秘をしたり ・肥満しやすくなります。また重症の場合は、いわゆる閉経前後の諸症 を発することとなります。しかし大多数の健康な女性は、先天的な素質 が丈夫で、後天的な摂生もなされているので、自力で調節し適応するこ とによって、この更年期を順調に送っています。









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