妊娠期における病の弁病弁証




妊娠時期に発生し、妊娠に関連しておこる症状を妊娠病と呼びます。 成長状態も年齢も月経も正常な女性の月経が突然止まり、酸味を好み吐き 気を催し、倦怠感がおこり眠たがり、食物の嗜好が変化し、その脉状が滑 のものは、妊娠の初期です。

よく見られる妊娠病としては、悪阻・妊娠腹痛・胎漏・胎動不安・ 堕胎〔訳注:流産〕・小産〔訳注:早産〕・滑胎〔訳注:自然流産〕・胎 児の位置異常・妊娠腫脹・妊娠癇証・妊娠心煩・妊娠咳嗽・妊娠失瘖 〔訳注:妊娠による発声困難〕・妊娠小便不通・妊娠小便淋痛・胎気 上逆・胎児が成育しない・死胎が下りない・難産といったものがあります。







懐胎以降、陰道から突然下血し、その量は少なくあるいは月経時期 になると数滴の血が漏れ、腰のだるさや腹痛や胎児が降りてくる感じのな いものを、胎漏と呼びます。妊娠していて突然胎児が動いて下に降り、腰 がだるく腹痛があり、ときに陰道から少量の血が流れ出るものを、胎動不 安と呼びます。胎漏あるいは胎動不安で、下血の量が少なくその色が薄く、 少気〔訳注:呼吸が浅くて速く〕神倦〔訳注:意識がしっかりしない状態〕 を伴うものは、多くは気血虚弱によるものです。もし腰がだるくて力が入 らず、小腹が下に降りてくる感じがするものは、腎虚です。もし下血の量 が少なく、その色が深い紅で粘稠であり、口干や心煩を兼ねているものは、 多くは血熱によるものです。下血の量が多く、その色が紅く、腹痛がして 胎児の一部が出てくる場合は、流産を避けられません。

妊娠中期や末期に、絶えず腹痛がしたり腰が脹って排便したくなり、 陰道から少量の血が降り、羊水が流れ出るものは小産の徴候です。もし胎 動が止まって心音が停止し、死胎がいつまでたっても排出できないものは、 死胎が降りない状態です。もし突然出血しても腹痛がないものは、胎盤の 位置異常【原注:前置胎盤】の可能性があります。もしなんらかの原因 【原注:外傷など】で腹痛がおこり、大量に出血する場合は、胎盤剥離の 可能性を考えなければなりません。

妊娠時の子宮の大きさがその月数に甚だしくそぐわないことがあり ます。妊娠の月数に比較して明らかに小さすぎる場合、その多くは胎児が 成長していないことによるものです。その反対に明らかに大きすぎる場合、 双胎・怪胎【原注:葡萄胎】・羊水過多によるものです。







妊娠早期の悪心嘔吐は多くの場合悪阻です。吐いて食べられないも ので、その脉状が緩滑で無力なものの多くは、脾胃の気虚に属します。苦 い水や酸っぱい水を吐き、その脉状が弦滑のものの多くは、肝胃不和に属 します。涎を吐き、大腹部がつかえて脹るものの多くは、痰湿による阻滞 に属します。

妊娠して下肢が甚だしく腫脹し、その水腫が波のように全身におよ ぶものを、妊娠腫脹と呼びます。倦怠感・大腹部の脹満感を兼ね、その脉 状が沈滑で無力のものは、脾虚に属します。腰骶部がだるく痛み、 寒冷を畏れ、その脉状が沈遅のものは、腎陽の不足に属します。

妊娠末期、頭暈・頭痛・眼花がおこり、胸がもだえて吐こうとし、 水腫を兼ねるものは、子癇の前徴です。もし突然抽搐がおこれば、子 癇の発作です。この発作時には、歯を食いしばり・手足が抽搐し・筋 肉が顫え・唇や顔面が青紫になりますが、すぐに抽搐は止まって徐々 に覚醒してきます。しかし、発作が治まってからも、再発することがあり ます。その舌は紅絳で、脉状は弦勁〔訳注:非常に堅い弦脉〕あるいは弦 数です。









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