陰陽互根



陰と陽・精と気は互いに根ざし互いに済けあう。
治療法においては、
陰中に陽を求め陽中に陰を求めるべきである。



景岳は認めていた。『天地陰陽の道はもともと和平であることを 貴ぶ。気が調えば万物が生ずるが、これは造化生成の理である。』 もし陰陽に少しでも平らかでない部分があれば、それによって疾 病や災害が生ずる。すなわち、『陰陽の理はもともと互いに根ざ しているものである。陰陽は互いに求めあうものであり、どちら か一方が欠けても成り立たない。陽がなければ陰も生ずることが なく、陰がなければ陽も化すことができないのであ』《本草正 ・地黄》り、また、『陰には必然的に陽がついてくるので、気 は必ず形を生ずることができるのであり、陽には必然的に陰がつ いてくるので、形は必ず気を載せることができるのである。この ように物が生ずるということは陽によって生ずるのであり、物が 成るということは陰によって成るのである。』《求正録・真陰 論》と。

このように陰陽の存在そのものが密接に関係して助け 合い互いに根ざしているため、治療する場合には、『よく陽を補 うものは必ず陰中に陽を求めて、陽が陰の助けを得てその生化が 順調に行なわれるようにする。よく陰を補うものは必ず陽中に陰 を求め、陰が陽の升を得てその泉源が涸竭しないようにする』べ きであると論じているのである。






さらに進めて景岳は、『陽が陰とのバランスを失って乖離した場 合、陰を補うことがなければどうして収・散・亡の気を救うこと ができようか?水が火とのバランスを失って敗れた場合、火を補 うことがなければどうして醒・垂・寂の陰を救うことができよう か?これはさらに重要な陰陽相済の妙用である。』《新方八略 ・補略》と語る。

このような陰陽は互根互済しているという 〔訳注:陰陽が互いに根ざし互いに助け合っているという〕論に 基づいて、陰陽が互いにバランスを失い乖離してしまうことは本 来ないのだということを詳細に論述し、この理論を運用していく ための妙法を明らかにしているのである。






こういった関係はただ陰と陽に止まらず、精と気においても同じ ように言える。

『形は精によって成り、精は気から生ずる。』た め、『精を治療することが上手なものは、精の中に気を生じさせ、 気を治療することが上手なものは、気の中に精を生じさせる。こ こにも自然に、分けることができるものと分けることができない ものとの間の妙用が考えられているのである。』《伝忠録・陽 不足再弁》

精と気の関係はこのとおりであるが、水と火もまた これと同じような関係にある。

『命門の火はこれを元気といい、 命門の水はこれを元精という。』《求正録・真陰論》

水は陰 に属して火は陽に属す。

そして、『ひとつの道が陰陽を生ずるの であるから、陰陽はもともとは同じ気であると言える。火は水の 主であり、水は火の源である。水と火は本来別々に考えることの できないものである。』《伝忠録・陰陽篇》

そのため、『も し火の中に水がなければ、熱はますます盛になっていく。そして 熱が極まって陰を亡ぼしてしまうと、全ての物は焦枯することと なる。・・・(中略)・・・もし水の中に火がなければ、寒はど んどん盛になっていく。そして寒が極まって陽を亡ぼしてしまう と、全ての物は寂滅することとなる。』《伝忠録・陰陽篇》

この理屈は気と血との関係においても同じようにあてはまる。

『血と気とは本来互いに根ざしているものであり、二つに分ける ことができないものである。人参・黄耆・白朮の類は気分の薬で あるけれども、血薬として用いて血を補うこともできるのではな いだろうか?当帰・川きゅう・地黄の類は血分の薬であるけれども、 気薬として用いて気を補うこともできるのではないだろうか?』

そして景岳はまとめていく、『陰は陽に根ざし、陽は陰に根ざす。 正攻法の治療を施すことのできない病人の場合、陽を陰に引いた り陰を陽に引くことによって、それぞれに関係する場所を探して その力を弱めてやるとよい。例えば、汗についての治療を施すと きに血を治療し、気を生じさせる治療を施すときに精を治療する などは、陽を陰に引く治療法ということができ。また、上炎して いる虚火を引いて本来の場所に帰したり、気を納めて腎に帰らせ るという治療は、陰を陽に引くということになる。これが、水中 に火を取り、火中に水を取るという意味である。』《伝忠録・ 陰陽篇》と。






景岳はこの理論を根拠として、左帰丸・右帰丸・左帰飲・右帰飲 ・温散と栄血を補益する効能を兼ねる大温中飲・附子や人参と熟 地黄や当帰とを同時に使う六味回陽飲・さらに当帰や地黄と二陳 湯とを同時に用いる金水六君煎等の著名な方剤を創製した。

この 事実は、彼が立てた理論が実際の使用に堪えるものであるという ことを証明している。この理論は《内経》における陰陽互根の思 想をさらに深め、それを医療実践に具体的に応用したものである。

またこれは景岳の学術理論の精髄をなすものであり、後世の医学 の発展に対して非常に大きな影響を与えることとなった。







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