下焦精蔵 第三節 腎精蔵




腎は精を蔵する場所です。その精は先天から()けたものなのでしょうか後天に生じたものなのでしょうか。そもそも父母が交接し父の一滴の精液が母の子宮に凝って胎ができます。その父の精は直接その子の腎精となるものです。《経脉篇》に、『人の生のはじめはまず精を成します』と述べられています。であれば、腎が蔵するところの精液は、先天から出て身体に先立つ真陰であるということになります。

けれども先天から稟けるところの精液だけで、後天の谷気(こっき)〔訳注:穀物の気〕の精がそこに加わることがなければ、これが全身に充満し、終わるまで保たれることはできません。ですから先天の精は後天の精によって養われているということになるわけです。

後天の精は、中焦水穀の精液から出ています。飲食物が胃に入り脾がこれを消化します。腐熟された水穀の純精潤液の気が中焦から出て十二経を養い、津液や血脉を助け、臓腑の精となります。その経絡津液血脉臓腑に注ぐところの精液が再び泄れて腎に注ぎ、化して先天の腎精を養います。《上古天真論》に、『腎は水を主ります。五臓六腑の精を受けてこれを蔵します。ですから五臓が盛んであればすなわちよく瀉すことができるわけです。』と述べられています。このように腎臓の真精は、先天から稟けて後天によって養われていることは明らかなのです。

精というものは腎にだけあるわけではなく、他の臓腑すべてにもまたあります。けれども他の臓腑が所持している精は、先天から稟けたものではありません。後天 水穀の精液から生じたものです。ですから諸臓諸腑の後天の精液が盛んなときには、先天の精である腎陰を養うことができるので、精が下り瀉す〔訳注:すなわち射精して子供を作る〕ことができるわけです。けれども水穀の精気が中焦から出て直接腎に及ぶわけではありません。まず諸経津液血脉臓腑を潤した後に再び化して腎水を生じるものです。世の医の多くはこれを誤り、水穀の精気が中焦から直接腎水を潤養すると言っていますが、誤りです。



一元流
医学三蔵弁解 前ページ 次ページ