中焦穀府 第六節 腎虚及胃




医家のいわゆる脾腎の虚は、腎から始まって脾胃に及ぶとされています。胃は右に弁じたように、相火によって物を腐熟させます。その相火の本は腎が水中に蔵しているもので、命門の陽火と名づけられている下焦の相火です。もし腎気が労〔訳注:身心の疲労〕によって傷られて、命門の相火が衰えると、三焦の相火が減り、胃中が熱しません。胃中が熱しないと、水穀を化せません。水穀を化せないと、中焦が虚して、ついには脾腎両虚となるわけです。仲景の八味円〔訳注:金匱腎気丸:八味地黄丸〕で腎を補ってこの火を助ける理由がこれです。

《素問・水熱穴論》に『腎は胃の関』と述べられています。関とは、開閉や出入が行なわれる大切な場所です。腎は竅を二陰に開きます。二陰は胃中で消化された水穀〔訳注:の糟粕〕が滲み出る場所です。腎が病んで二陰が和さないと、胃はそのために苦しみます。どうしてかというと、二陰が閉塞して泄れ出なくなると、穀気が留滞して宿積となったり、水気が溢れて浮腫の症となったりし、二陰から妄りに滲み泄れ出ると、胃中の気液が出てしまってこのために胃が不足するためです。

ですから腎は胃の関であり、中焦の虚実の多くは腎に属するものなのです。



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