胎教について




「胎教」は、中医学おいて、胎児を優生的に育てていく措置の一つ となっています。この胎教という概念についての記載は、中国においては 非常に早い時期からあります。







考証によれば《周代列女伝》の中に早くも、『受胎したのは文王の母であ る。その妊娠に際しては、目で悪い色〔訳注:ものごとやできごと〕を見 ず、耳で淫らな声を聴かず、口から気ままな言葉を出さなかった。』と記 載されています。

この後も歴代にわたって非常に多くの胎教に関する記載があります。たと えば《諸病源候論・妊娠候》によれば、『賢良盛徳な〔訳注:賢くて気立 てがよく、とても徳の高い〕子供が欲しければ、端心正座し〔訳注:心を 鼻尖において正座して〕、清虚和一〔訳注:すっきりと無欲な心をもって ゆったりとひとつのことに集中〕していなければならない。座る時に姿勢 を崩さず、立つ時も偏った姿勢とならず、歩く時もそれに集中して姿勢を 乱してはいけない。目でよこしまなものを見ず、耳でよこしまなものを聴 かず、口でよこしまなことを話してはいけない。心によこしまな思いを抱 かず、みだりに喜んだり怒ったりせず、思い惑ってはいけない。食べる時 にも塊の肉には手を出さず、よこしまな寝方をせず、足を横に投げ出さず、 果瓜を欲することなく、酢漬けの野菜を食べ、香りの良いものを好み、穢 れた臭いに出会えばそれを嫌わなければならない。これは外象によって変 わるものについてあげたものである。』とあります。

また徐之才の「逐月養胎法」には、胎児の月数の成長状態と母体における 十二経の気血の満虚を述べており、さらにはそれに応じた妊婦の起居飲食 などの具体的な方法について、広汎にあげています。またこのことは《千 金要方・養胎論》の中や《万氏婦人科・胎養》の中でも類似した記述がな されており、さらに《婦人良方大全》においては、「胎教」という分野が 設けられ、専門的に論じられています。

これらの見方は、ある種、唯心的なあるいは封建的な色彩が根強くありま すが、その核心は、どうすれば母子ともに丈夫で長生きできるかというこ とを探究したものであり、いわゆる優生的な目的をここで達成していると 言えます。







いわゆる「胎教」とは、胎児が母胎内で母親の精神活動を通して直 接教育されるというこを説いているものではなく、妊娠している母親の身 心の健康と生活状況が、胎児の発育に大きな影響を与えているということ を説明しているものです。このことは、現在の生理学的な観点から見ても、 あながち科学的根拠がないものではありません。

事実、妊娠の3週目から7週目までは、胚胎の組織が徐々に分化し て各器官を構成していく時期ですが、胎児は各種の刺激に対して比較的敏 感に反応しますし、有害な刺激が与えられると奇形を非常に発生し易いも のです。このことは機器による観察によっても証明されています【原注: 多くは普勒(プレ)測定機?や子宮内視鏡による観察】。三ヶ月以降の胎 児は、その器官が充分発育しているものですが【原注:外界の声や動きに 対して感覚器官によって反応します】、その妊婦が長期にわたって恐怖や 怒りや抑欝状態やさまざまな疾病にさいなまれていると、母胎内の生理的 な環境が変化し、それによって子宮内部の環境も変化して、胎児の発育に 影響を与えます。ですから、母体が良好な生理的環境にあり良好な生活環 境にあるということは、言うまでもなく、胎児にとってもまた非常に有益 なことなのです。









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