妊娠時期の母体の変化




受胎以降、その母体には胎児を育てるために必要な一連の変化がお こります。妊婦のさまざまな生理的機能は、平時と比較すると旺盛になり ますが、このような変化は、一連の妊娠過程の進行を助けて、分娩時に向 けて良好な生理的状態を準備するためのものです。しかし、もしこのよう な変化が生理的な限界を超えてしまうと、妊娠時期に特有の疾病を引き起 こすことになります。







懐胎以降、腎気は平生の時と比較すると充実して盛になって胎児を 育み養い、陰精や血液が下焦に集まります。また、衝脉・任脉も平生の時 と比較すると盛に通じるようになりますから、精血を、下に子宮にめぐら して胎児を育ませ、上に胃経に注いで乳汁を栄養します。ですから妊娠す ると月経が止まり、子宮や陰道や陰戸が柔軟になって肥厚し、帯下も平生 の時と比較するとやや多くなります。また、胎児が発育するにつれて、子 宮も大きくなり、腹部は徐々に膨張して隆起し、体重も増加します。一般 的な妊娠では、体重は平均して、だいたい10~12Kg増加します。妊 娠の末期【原注:最後の一ヶ月】の体重の増加は、一週間に0、5Kgを 超えることはありません。また乳房も、平生の時と比較すると豊満に隆起 し、乳暈も大きくなって色が深くなります。妊娠4ヶ月以降になると、淡 黄色の乳汁【原注:初乳】が出ます。

妊娠早期【原注:妊娠3ヶ月より以前】は、衝脉の気が比較的盛で す。衝脉の気は胃気を犯して上りやすいので、このころ、悪心・嘔吐・食 事の好き嫌いが出てきます。妊娠中期から末期にかけては【原注:妊娠3 ヶ月以降】、胎児が発育するにつれて必要となる栄養が日々増加するため 陰血が相対的に不足し、気血の調和を失いやすくなり、血虚胎熱という症 状が出やすくなります。胎児が大きくなるにつれて、その頭部は下に移動 しますので、膀胱や直腸が圧迫され、頻尿や便秘になったり、下肢に軽度 の腫脹などが現れることがあります。また妊婦によっては、臍下の正中線 や外陰部の色素が濃くなったり、顔面の鼻や頬の両側に黒褐色の斑ができ たり、腹壁・乳房・大腿内側の皮下に裂紋のような斑紋が現れることがあ ります。これを妊娠紋と呼びます。

妊娠の時期には気血が増加し、また必要とされる速度が平常の時よ りはるかに速くなりますので、滑動でやや数の脉状が現れます。これがす なわち『陰が搏ち陽が別れる、これを妊娠しているものとする』〔訳注: 尺位の脉があり、寸口の脉がなくなっているものを、妊娠の徴候とする〕 という状態です。









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