産後、乳汁の出が少ないか全く出ないものを、「缺乳」あるいは 「産後乳汁不行」「無乳」などと呼んでいます。
分娩以降、脾胃によって化生された水穀の精微の一部は、衝脉と陽 明の気に従って上行して乳汁となり、嬰児を栄養することになります。母 乳の量と質とは嬰児の需要に対して最適なものであり、嬰児にとっても消 化しやすいものです。母乳には、人工乳よりもはるかに優れている点が他 にも多くあります。ですから、嬰児の計画的な養育をしていく上で、嬰児 が充分に良い環境で養育されていくということと同じように、産褥婦が充 分な乳汁で嬰児を栄養していけるようにすることが、非常に意義あること となるわけです。
一般的には、分娩時に陰血が急激に失われ、元気が非常に消耗され たり、哺乳期に月経が始まったりすると、乳汁の出は少なくなりますが、 これは正常な範囲にあると考えます。しかし、分娩後一週間以上、あるい は産褥期間内、またさらに長期間にわたって乳汁の出が悪かったり、乳汁 の分泌が阻害されて乳汁の出が非常に少なかったり全く出なかったりする ことは、ここで問題として考えていく事柄となります。
もし、体質が虚弱なために缺乳となっている場合は、治療していく にしたがって乳汁の量が明らかに増加し、授乳期間も長くなります。しか しそのまま放置しておくと、嬰児の栄養が不足してその生長に対して影響 を与えるだけでなく、母親も精血の虚損によって月経が閉止することがあ ります。
もし、乳汁が郁滞して缺乳となっている場合は、治療していくにし たがって乳汁が出やすくなります。しかしそのまま放置しておくと、乳房 が脹って硬く重くなり、さらには紅く脹れて熱をもち、身熱や口渇などの 症状を呈するといった、乳腺炎を発症する前徴が現われてきます。もし乳 腺炎になると、母親は非常に痛むため苦しむことになります。
ですから、缺乳に対する適切な治療は、母子の健康にとって非常に 有益なものとなるわけです。
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