気味篇





薬物の種類は多く、それぞれに性格がある。

またその適合不適合にも非常に多くのパターンが有り、全てを知り尽くすことは非常に困難である。

薬物を用いるものがその要点を充分に把えていなければ、多くの誤ちを犯さざるを得ないだろう。

そこで私はここに本草学についての注意すべき点と効能の、概要を語ろうと思う。

もしこの中に長所があれば、取り上げ使っていただきたい。






本草学にあっては何が専ら主となるのか、どの効能を兼ね備えるのか、何を利し何を利さないのか、何が補法に秀で瀉法に向いていないのかといったことを、学者はその薬物の真の性質を理解しないまま、ただ机上の空論として考えている。

ゆえに薬を用いても効果が上がらないことが多く、用薬の難しさはますます深まるばかりである。






用薬のコツは他のところにあるのだ。

それは、ただその気味に精しくなり、その陰陽をよく理解していくということである。

そうすれば、薬味がいかに多くとも、その薬の要点を把えることができるだろう。







まず気味について弁じるなら、諸気は陽に属し諸味は陰に属する。

気は天に基づくが、気には寒・熱・温・涼の四種類がある。

味は地に基づくが、味には酸・苦・甘・辛・鹹・淡の六種類がある。






温熱は天の陽であり、寒涼は天の陰である。

辛甘淡は地の陽であり、酸苦鹹は地の陰である。

陽は升を主って浮き、陰は沈を主って降る。

辛は散を主って横に行き、表を解く。

甘は緩を主って上に行き、中焦を補う。

苦は瀉を主って下に行き、実を去る。

酸は収を主って収斂の性質が有り、泄を治す。

淡は滲を主って小便を利する性質が有り、清濁を分つ。

鹹は軟を主って沈む性質が有り、導滞する。






純粋に気を用いる場合は、その動を用いて循らす方向に使い、

純粋に味を用いる場合は、その静を用いて守る方向に使う。

また気味を兼用する場合もあるが、この場合は和合を最も貴び、互いによく調和しあう薬を用いる。

君と臣として相配しそれが適合するかどうかを判断する場合は、その薬味同志が斥け合うのを特に嫌う。

すでに薬味が合っているとしても、禁忌についてよく研究して、先ず最初にその害を避け後にその利を用いるべきである。

一つの処方の中に一味でも使ってはいけないものがあるならば、他が全て合っているとしてもその処方を用いてはいけない。






ゆえに、表を散じようとする場合は、酸寒薬を用いてはいけない。

気を下降させようとするならば、升散薬を同時に用いてはいけない。

陽気が盛なものには温薬を用いず、陽気が衰えているものには沈寒薬を用いない。

上実のものは気が升ることを嫌い、下実のものは気が秘することを嫌う。

上虚のものは気を降すことを嫌い、下虚のものは気が下から泄れることを嫌う。

よく動くものは再び動かせばすなわち散じ、

静なものは再び静けさを与えればすなわち滅びる。

甘味は中満のものには与えてはいけない、

苦味は仮熱のものには与えてはいけない、

辛味は熱躁のものには与えてはいけない、

鹹味は傷血したものには与えてはいけない。

酸木は土を最も剋しやすいものであるが、脾気の虚するものに少し用いると面白い効果があがる。









陽中にはまた陰象があり、陰中にもまた陽訣がある。

この陰陽の関係を明確に理解することができれば、いかに薬理の奥が深いといっても透徹した理解を得られないことはないだろう。









五味の入るところについて《内経》には、

『五味胃に入らば、各々その喜ぶ所に帰す。

ゆえに酸は先ず肝に入り、苦は先ず心に入り、甘は先ず脾に入り、辛は先ず肺に入り、鹹は先ず腎に入る。

久しければその臓の気を増し、食物がその臓の常態を変化させることになる。

(ひとえ)に気を増すことが永く続くと短命の元になる。』とある。









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