帯下が生成される理由






帯下が生成されることと
液が生化されることとは同源



《霊枢・五癃津液別》に、『津液はそれぞれその道を走る・・ ・(中略)・・・その流れて循らないものが液である。』とあり、また 《霊枢・口問》には、『液は、精をうるおし空竅をうるおすものである。』 とあります。帯下の性状を見ると、粘稠で浄潔ですから、液に属すると 考えられます。ですから、帯下が生成されることと液が生化されること とは同源であると考えるわけです。




帯下は腎によって収蔵・施泄され、
脾によって運化・転輸される



一般的な女性においては、14才前後に腎気が始めて盛になり、帯下が 始めて出現します。腎気が安定していると、発育や成熟にともなって帯 下は膣を津々と常にうるおしています。経間期、陰陽ともに成長した 絪縕の時期には、帯下の色沢も明浄となり、量もやや増加し ます。妊娠しているときは、陰精が下に集まっていて、衝脉・任脉が充 実して盛になっていますので、帯下の質も比較的粘稠で濃くなっていま す。閉経以降は腎気が徐々に衰え、真陰が徐々に虚し、天癸が竭して止 み、月経が完全になくなっていますので、帯下も涸れて膣の内部も潤い がなくなります。このように帯下が始まり溢れ涸竭するまでの経過およ び、その量・質・色の変化という生理的な現象について述べましたが、 そこには必ず常〔訳注:一般的な状態である〕とする範囲があります。 そして帯下もまた直接、腎気の盛衰によって主宰されています。『腎は 蟄〔訳注:ちつ:内にこもること〕を主り、精のあるところ。』《素問 ・六節臓象論》、『白帯は子宮から出る、精の余りである。』《景岳全 書・婦人規》。腎は子宮に関係し、二陰を主り、施泄を主ります、また 液の気化と蒸騰〔訳注:蒸気のように噴霧すること〕も腎にもとづいて います。そのゆえに帯下は、腎によって収蔵・施泄されると言われてい るのであり、ここに必ずその常とする範囲があるわけです。

脾は、運化を主り、津液をめぐらし、水穀の精微を送り出します。脾気 による転輸と運化によって津液はそれぞれその道を走ることができ、液 が前陰部の空竅に滲み出して、精の余りと合して帯下となるわけです。




帯下は任脉に主として主られ、
帯脉によって約束されている



任脉は陰脉の海であり、人体の陰液はすべて任脉に帰ります。任脉は子 宮から出て陰器を循り、また帯脉の約束〔訳注:ぎゅっと束ねること: その方向への制約〕を受けています。帯下は陰液に属しますが、任脉に よって調節され養われ、さらに帯脉による約束を受けることによって、 その一定の量を維持しています。




まとめ



以上、帯下の生成と、腎・脾の二臓、任脉・帯脉の二脉との関係につい て説明しました。歴代の医籍における帯下の病についての論述の中でも、 脾・腎・任脉・帯脉を責めている〔訳注:中心として治療している〕も のが大勢を占めます。たとえば《素問・骨空論》には『任脉が病となる と・・・(中略)・・・女子は帯下や腹部のできものができる』とあり ますし、《素問玄気原病式》にも、『ゆえに、任脉の下部の湿熱が甚だ しいものは、津液が溢れ出て帯下となる。』とあり、《女科撮要》にも、 帯下は『脾胃が虚損して陽気が下陥したり、湿痰が下に注いで蘊積する 〔訳注:うんじゃく:こもって溜まる〕ためになる。』とあります。ま た《景岳全書・婦人規》には、『すべて命門がしっかりしていないため におこる』とあり、《血証論・崩帯》にはまた、『帯脉が損傷され、子 宮の中に注ぐと、当然帯下の病がおこる』とあります。臨床的にも、帯 下の病を治療する場合、脾や腎を中心として論治することによって、よ い効果を収めています。病変というものは、生理的な状態に反している ものですから、帯下の病に関する記載は、腎・脾の二臓と任脉・帯脉の 二脉とが帯下の生成と密接に関係しているということへの反証になるも のであると考えられます。

以上まとめます。帯下は人体における陰液であり、その生成は腎・脾・ 任脉・帯脉の生理的な生化によっています。帯下は、腎によって収蔵・ 施泄され、脾による運化・輸布を経、任脉によって主として主られ、帯 脉によって約束されています。腎気が充分に盛であり、腎精が充分に溢 れており、脾気が健全に働いていて、調和がとれた状態で任脉が通じて おり、帯脉がしっかり引き締まっていて健康であれば、陰液はじわじわ と子宮の中に滲みだしていき、膣内の空竅をうるおします。これが、生 理的な帯下です。









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