任脉は胞中におこり、会陰に出て、曲骨を経て毛際に上り、腹部の正中線 に沿って上行し、中極・関元にいたり、腹裏を循り、石門・気海を過ぎて 陰交にいたり、臍中の神闕穴を経て止まり、水分・下脘・建里・中 脘・上脘・巨闕・鳩尾・中庭から膻中に入り、上行して玉堂 ・紫宮・華蓋・璇璣・天突・廉泉から咽喉にいたり、ふたたび下 顎部を上り承漿を過ぎ、口唇を環のように循り、上に督脉経の齦交穴にい たり、分かれていき、両目の下の中央で足の陽明と陽蹻脉とが交わる 承泣穴に連なって止まります。
その分支は、胞中を出て、後ろに向かい、督脉と足の少陰の脉とともに脊 裏に入ります。
任脉は、中極・関元穴で足の三陰経と交会し、天突・廉泉穴で陰維脉と交 会し、陰交穴で衝脉と交会します。手の三陰経は足の三陰経を通じて任脉 と相い通じます、足の厥陰肝経が手の太陰肺経と交会し、手の少陰心経が 足の少陰腎経と相い交わり、手の厥陰心包経と足の少陰腎経が相い交わっ ているためです。ですから任脉と足の三陰経とが直接相い会することを通 じて、任脉は陰経すべてと関係をもっていることになります。そのため任 脉は『陰脉の総綱である』と言われているのです。
基本的に人体における陰液(精・津・液・血)はすべて任脉に帰し、任脉 が主ります。ですから任脉はまた『陰脉の海』と呼ばれています。任脉に は人体における陰気を総括し調える機能があるわけです。
このような任脉は、女性の生理的な機能を考えていく上で、非常に重要と なります。このことは『任脉は胞胎を主る』という言葉で表わされていま す。任脉は臓腑の精血を受けて衝脉と互いに助け合い、督脉の陽気と互い に交流しあいながら、盛に流れていきます。任脉は陰血と津液とを受けて それを調節し、胞胎〔訳注:子宮やおなかの中の赤ちゃん〕を養い、生理 的なおりものを分泌します。
衝脉も任脉もともに、男性にも女性にも存在します。けれども女性におけ る衝脉と任脉とは、ともに子宮の中を根源とし、その循行経路においても 女性特有の非常に重要な器官や部位を通っています。またその作用におい ても、生理や・生理的なおりもの・妊娠・出産・授乳と密接な関係をもっ ています。臓腑の生理機能が正常で、腎気が充実して盛であり、肝気の調 和がとれていて、脾胃が充分丈夫であれば、任脉・衝脉の二脉も盛んに通 じますから、生理も順調にきて、おりものも生理的な範囲であり、妊娠し てもしっかりと安定しており、乳汁の分泌も充分盛に行なわれます。
このように婦人科について考えていく上で、衝脉と任脉とは必ず基本とし て考えられます。古来、中国医学の書物の中でこの衝脉と任脉とを論ずる 場合、あるときは実質的な経絡を指して語られ、またあるときは衝脉と任 脉とに依拠する生理的な範囲を指して語られ、またときには婦人科の病が ある場所を代表させて語られていますが、習慣的には女性の生殖能力の側 面を代表させて語られることが多いようです。たとえば《黄帝内経素問》 の王冰の注では、『衝脉は血海のことであり、任脉は胞胎を主る。この二 者が互いに助け合うことによって、子供を宿すことができる』とあります。 しかし我々は、婦人科においてこの衝脉と任脉とが重視される理由の中で、 婦人科における生理的病理的な場所を示すものという意味がもっとも強い のではないかと考えています。これは《医学源流論》において、『衝脉と 任脉とはともに胞中におこり、上って脊裏を循り、経脉の海とする。これ はともに血の生ずるところであり、胎の系るところである。衝脉と任脉と を明確に理解し、その根源について確実な洞察を得ることができるならば、 いかに複雑怪奇な病が起ころうとも、その原因を探りだすことができる。』 つまり、衝脉と任脉とが女性の生理的病理的な側面で独特の機能を持って いる、と徐霊胎が強調しているとおりです。
また衝脉と任脉とは生理的に臓腑の支配を直接受けていますが、その中で も脾胃・肝・腎との関係は特に緊密です。そのため先人は、『衝脉は陽明 に隷属し、八脉は肝腎に隷属する』『病が衝任二脉にある時は、これを腎 ・肝・脾三経で責めよ』と説明しているのです。
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