第 六 難

第六難




六難に曰く。脉に、陰盛陽虚・陽盛陰虚のものがありますが、どういう意味なのでしょうか。


万物の変化をよく見ると、それが陰陽の消長にすぎないということが判ります。陰が盛なときは陽が衰え、陽が進むときには陰が退く、太陽が沈めば月が現れ、寒がやってくれば暑が去る、これが自然の道です。人身における陰陽もただこのように消長していくだけです。三難と五難ではこの陰陽の浮沈の法則を述べる際、広く大きく述べています。この難では浮沈虚実の法則を述べる際、簡略に述べています。片方では博くもう片方では簡約に述べることによって、陰陽の蘊奥を尽そうとしているわけです。






然なり。これを浮かべて損小、これを沈めて実大なので、陰盛陽虚と言います。


「損」とは、虚耗して実を失っているものです。「小」とは、減小して大ではないものです。「損小」は不及であり。「実大」は太過です。陰盛陽虚の脉を表わすものは、表寒裏熱し・上虚下実・陰血が盛で陽気が衰え・顔色は萎〔訳注:くすんで疲れた感じ〕でも形は損なわれていないといった状態のものです。広く推し広げて考えていってください。


問いて曰く。表寒裏熱の症にも、陰陽消長の法則があるのでしょうか。

答えて曰く。表寒とは、陰邪が盛で陽分を侵し、陽が衰えて退いて裏に入り熱となったものです。たとえば冬季、陰が盛で寒するとき、陽が地中に伏して井戸が温かくなるようなものです。






これを沈めて損小、これを浮かべて実大なので、陽盛陰虚と言います。


陽盛陰虚の脉を表わすものは、表熱下痢・上火下冷・心肺盛で腎肝虚す・形は萎で顔色は損なわれていないといった状態のものです。


また腹診の法で、手でこれを按じて、腹表は実脹で腹裏が虚弱なものは陽盛陰虚です。腹表が軟で腹裏が牢のものは陰盛陽虚です。


声診の法で、声が軽浮で短のものは、陽盛陰虚です。声が重沈で長のものは、陰盛陽虚です。このようにあらゆる現象について考えていくと、この考え方をよく理解できるようになります。






これが陰陽虚実という意味です。


最初の問に合わせて文を結んでいます。脉状には多くの種類があるとは言っても、全て陰陽虚実の法則によって理解していくことができます。『その要を知る者は一言にして終わる』〔訳注:その要点を理解したものは、一言で終わる〕というのはこの事でしょう。一般的に、陽は変化が速く、虚し易く満ち易いものです。ですから陽虚の証の人は治し易く、また急に悪化する危険があります。陰は変化が遅く、欠け難く満ち難いものです。ですから陰虚の証の人は治し難く、久廃の患〔訳注:長期にわたって徐々に衰えていく病〕となる心配があります。また、陰は内にあり陽は外にあります、外を損なうものは治療し易く、内を傷るものは治療し難いものです。私は思うのですが、脉の浮沈全てが実大のものは、陰陽ともに盛で邪気が甚だしいもので、浮沈全てが損小のものは、陰陽がともに虚していて正気が痩せているものであり、ここにもやはり虚実の意味があるのではないかと。



一元流
難経研究室 前ページ 次ページ 文字鏡のお部屋へ