冷えのぼせの弁証論治


冷えのぼせの弁証論治
病因病理:弁証論治:治療方針:養生




病因病理



今もある胃痛の始まりは20歳頃からで、睡眠不足や食事ができない時など体調が優れないときに、胃が痛くなっており、この痛みは朝起きると治っていることから、腎虚肝鬱による肝気の横逆により胃痛が起こっていると思われる。肝鬱の根拠としては、高校生頃あった耳鳴りが、元気なときに起こっていたとのことから肝気を張ってがんばると気が上衝して起こっていたと考えるためである。

これらのことからこの患者さんは肝気を張ってがんばりやすいタイプと推察され、それにより肝鬱および腎虚になりやすい傾向があったと窺える。







大学卒業後、数年の海外旅行をし、帰国する。帰国後から汗をかきやすくなっているが、これは軽い心気虚が起こっているためだと考える。

その原因として、海外旅行中は食事が不規則となり、長時間食べないこともあればその反面大食いをしていたり、間食をしていたりと脾気への負担も大きかったことが心気に影響したと考えられる。胃痛があったことからも、脾気の損傷があったことは窺え、体重が48kgになるほどの活動量であったことも考えると、腎気の消耗もあったと考えられる。ただ、この患者さんにとっての海外生活は精神的にはストレスもなく、肝鬱になることは少なかったようである。

帰国して数ヵ月後には専門学校に入学する。入学してから生理痛がなくなった。これは練習で鍼をうたれることが多くなり、知らず知らずのうちに理気されていたためで、夏休みに鍼をうたなかった時は生理痛がひどかったことからも鍼練習が生理痛をなくしたと考えられる。

その一方で、月経量が減り、生理がすっきり終わらなくなったことをみると、腎気の損傷が現れ始めている。鍼で理気をしなければ起こる生理痛を考えると普段から肝鬱があることが窺われ、それが日常的に腎気を消耗していると考える。鬱した肝気を払うことはその場では一時的な治療効果があるが、腎気を養うことにはならず、腎気の損傷が続くこととなる。







去年の初めに、後頭部に拍動性の頭痛、動悸、のぼせ(授業を聞いていて突然頭が熱くなる)、右小指に痺れなどの症状が現れる。これは腎陰虚が進み、同源である肝陰も損傷し余計に気が上衝しやすくなってのぼせのをきたし、また心陰の虚も引き起こして、動悸、右小指の痺れを発症したと思われる。

この頃から月に2回くらい下痢をするようになり、普段は軟便なことが多くなる。また五更泄瀉と思われる明け方の腹痛を伴う下痢などもあり、脾腎ともに損傷が大きくなっていることが窺える。

一ヶ月ほど前から頭痛、吐き気がひどくなっている。これは2ヶ月ほど前から学校の後にバイトを始め、さらに腎気を一段と損傷したことで気の上衝がきつくなったためである。授業中は悪化し、仕事に行くとましになるのは、仕事で動くことで少し気鬱が晴れるためで、これは運動すると調子が良いというのも同じである。

また音楽活動でも気分的には楽しく行っているが、肉体的疲労は強く感じていることからも、何か物事を行うために強く肝気を張って、腎気をより一層消耗するという悪循環に陥っている。この腎気の損傷は、もともと弱い脾気をさらに傷ることとなる。

一週間前からは心下部に痛みが出てきており、心への影響も窺える。この時点では動悸はなくなっていること、心下部に痛みという形で症状が出ていること、腹診で診た脾募の状態などから、これは心虚の痛みではないと考えれれる。脾募が心を突いている、つまり脾虚により生じた湿痰が影響していると思われる。

以前からあったお酒を飲んだ翌日のむくみに加え、ここ数週間続く朝の顔のむくみ、ずっと続く軟便・下痢、問診表作成時にはあった口渇感などが、この問診時には全くなくなっていることなどからも、脾虚による内生の湿痰の存在が窺える。







この患者さん本人が問診表で訴えている足の冷えを陽虚と考えると、お風呂などで体調がもっと変化してもいいように思えるし、足の冷えと連動して起こる胃痛ももう少し冷えと関連していてもいいように思うが、冷えとの関連がそれほど問診、切診ともに見受けられなかった。つまり主訴の足の冷えも、下肢の浮腫っぽい感じなどから湿痰との関連の方が強いと考えられる。

もうひとつの主訴であるのぼせは、もともと肝気を張って、気が上衝しやすいことに加え、上記に示した一連の脾腎の損傷による裏の弱さがさらに気を上らせることとなっている。また湿痰の存在がさらに気の疏通を悪くしているとも考えられる。

以上のように、主訴は足の冷えとのぼせであるが、本人の自覚以上に身体は困窮しているように思われる。




弁証論治



【弁証】脾虚、腎虚
【論治】健脾、補腎




治療方針



もともと肝気を張って肝鬱になりやすいタイプであると思われるが、今の状態を考えると肝鬱を払って持ち直せるほど脾腎が充実している状況ではない。まず一番最近の状況として湿痰の悪影響が出始めていることから、脾気を立てて内生の湿痰の排除を図ることとする。

次に裏をしっかりさせて頭痛など気が上衝しにくい身体にするために、腎気に納めるように治療する。

また病因病理では罹患時期がはっきりしなかったので触れなかったが、経穴の状態から見て風邪が抜けていないと思われる。その風邪が抜けないと裏が立ちにくいので、風邪が抜けるまで風邪の治療も同時に行う。




養生



まずご本人は自覚がないが、特にここ1年起こっている症状を身体からのメッセージと受け止めて、きちんと休養をとる必要があると考えます。今は学校の後、バイトをしているので帰りが遅くなり、寝るのが遅くなるのは仕方がないところではありますが、せめて日付の変わらないうちに就寝できるようにしたいところです。

また、楽しいこととはいえ、休日の音楽活動などで肉体的に無理をするのも、この患者さんの性格上、今はかなりのオーバーワークとなっていると考えられます。

気分転換と身体を休めることをうまくバランスをとって行うようにしましょう。

食事のほうでは、今は間食をあまりされていないようなので、引き続き間食を控えて、食べ過ぎに注意して、脾気の損傷を大きくしないようにしましょう。ただ、バイトの関係上、夕食が遅くなりそれが翌朝まで響くことがあるようなので、バイトの前に少しおなかに入れて、帰ってからの夕食は軽くするなどの工夫をされるとよいかと思われます。







主訴:問診

時系列の問診

切診

五臓の弁別

病因病理:弁証論治











一元流
しゃんてぃ治療院