論治


病因病理






14歳で生理が始まり、生殖という機能を発揮することを身体が求められると同時 に、激しい生理痛が始まり多少のゆるみを見せながらも、30台前半まで続くことに なります。

初潮の時期とほぼ重なって、奔豚のような症状を自覚するようになるの で、まずはここで腎の問題がでてきます。つまり、腎気の不足が、奔豚という気逆を 生み出したり、上逆しやすい体質を作ってしまったのではないか、という考え方で す。生理の時に、嘔吐まで伴っていたということも、激しい上逆の表れでしょう。ま た、生理は遅れがちで、ワンクール飛ぶこともあったということからも、腎気の不足 がうかがえます。ただ、私の生理痛の激しさを深く考えると、それは腎気の不足だけでは語りきれ ない問題があるようです。クーラーが苦手でそれが直接の原因で体調を崩すことが あったり、生理にお血が交じることが多いというようなことから、もともとの下焦の 内寒が疑われ、お血をともなっていると推察できます。 また、母や祖母も似たような生理痛、奔豚の症状を持ちながら、それが出産後には 軽減しているということを考えると、出産時に何らかの邪気を排泄していると考えら れ、それが寒邪、またそれに伴うお血だったのではないかと推測できます。もし生理 痛や奔豚が腎気の不足だけで引き起こされたものであったなら、産後、怪症があらわ れたはずですが、そのようなことはなかったそうなので。

思春期に腎気の不足ということが顕著になったわけですが、子供のころから、一時 期の扁桃腺以外は、病気らしい病気をほとんどしなかったということを考えると、腎 の器そのものはきちんと成長してきたと考えることができるでしょう。そして二十台 から三十台前半にかけて、かなりの無茶をしても、特に体調を崩すということがな かったことを考えても、腎の器そのものに問題があったとは言えないと思います。 ただ、腎陰と腎陽のバランスがあまり良くなく、それが腎気の不足という形で表れ たという可能性はあると思います。先の上逆しやすい体質というのも、腎気の充実の 中で腎陽が過多となる遺伝的な傾向があり(母も祖母も生理痛では苦労していま す)、それが不安定な肝気を作り出して上逆を起こしていると考えることもできま す。この上逆が下焦の疎泄をさらに悪いものにし、内生の邪を助長してしまったのか もしれません。







また、元来自分を面倒くさい、忙しい方向に追い込んでいく傾向の強かった私は、 つねに肝気を張っている必要があり、時としてそれが他の臓腑に負担をかけてし まったということも考えられると思います。

肝の土台である脾胃は、便通や食欲にトラブルを抱えたことがほとんどないとい うことから、先天的に丈夫で、肝のがんばりを支えることに、さほどの苦労はなかった と推察できます。しかしそれに比べて、もともと陰陽のバランスが悪く、不安定な上 に下焦の内生の邪とも終始向き合わなければならない腎は、フル回転してもなかなか 肝を養いきることができず、かなり虚した状態になってしまったのかもしれません。 もし、30代前半までに、妊娠出産というイベントを経験していたり、不妊という ことを真剣に考えていたならば、もっと腎の問題はクローズアップされていたのでは ないかと思いますが、生理痛は当たり前のことだと思ってしまう割り切りと、良く寝 てよく食べれば、大抵の体調の不具合はクリアできるという、脾胃の丈夫さからくる 発想で、結局、自分の身体に対して問題意識を持たないまま、30台の後半に突入し てしまうことになります。







35歳で、鍼灸学校に入学。つまり社会に対して責任のない、学生という気楽な身 分になります。それとほぼ同時期に、アキレス腱を断裂し、運動と疎遠になります。 そもそもアキレス腱を切った、ということは、まずその時点で肝が腱を健やかに養い きれていなかったという考え方もできるかもしれません。

組織の中で、それなりに緊張して仕事をこなしていくということは、私にとって ストレス(肝欝?)であったと同時に、肝気を晴らす大切な場所でもありました。そ こから離れてしまったこと、そしてアキレス腱を断裂したことにより運動も出来なく なってしまい、すっかり肝気を発散させる機会を失ってしまうことになります。肝気 を発散できないということで肝欝状態が助長されてしまいます。

基礎体力がなくなったと感じたのは、肝気を発散できないことへの、私自身の危機感 だったのだと思います。







そのころから、食欲や酒量が減ってきます。動かなくなり、エネルギーを使わな くなったのですから減って当然なのですが、体重にもほとんど変動がなかったので、 これは脾胃が上手に、身体に合った摂取量を決めてくれたおかげだと思います。

のんびりすごしていることに、逆に疲れを感じ始め、35歳の冬から治療院でのア ルバイトを始めます。行動を起こすことで、心身が肝欝からの脱却を求めたのかもし れません。

この治療院でのアルバイト(というより修行)は、どんな理不尽な状況でも、乗り 切ってやるぞ!という、勢いを久しぶりに私に与えてくれて、それなりに肝気を晴 らす場になったことは確かです。と同時に、こんな年齢になって、いったい自分は何 をやっているのだろう?という葛藤を産むことになり、結局は肝欝を助長させてしま うことになります。







そして、36歳の夏休み、クーラーと炎天下の出入りの激しい環境と、立ちっぱな し、できるだけ物を考えないようにするという状況が一ヶ月間続き、その期間は休ま ず乗り切ったのですが、学校が始まった途端に、体調を崩し、季節が変わっても疲れ が抜けない状態が続くことになります。夏の間張っていた肝気がゆるみ、それまで肝 気を支えるために無理をしていたそれぞれの臓腑の不都合が、一気に症状として表れ たのだと思います。

加齢を考えず、自分の体力を過信して、素体以上に無理をしてしまい、腎気をさら に損傷してしまったことが一番の原因だと思います。もともとクーラーが苦手で、強 くはなかった肺気を傷め、温度差の激しい生活で体温調節機能を乱し、肝欝状態を増 幅させてしまったとことが考えられます。

このころから、生理前のイライラや下腹部の鈍痛が気になるようになり始めます。 この夏に、ダイレクトに寒邪が下焦の寒凝血?を起こしたこと。肺気を傷めたこと で、気のめぐりが悪くなり、それにともなって血のめぐりも滞り、下焦のお血を増悪 させてしまったことが考えられます。そのお血や腎気の損傷による肝気の上逆が、も ともとの私の欝状態をさらにすすめてしまいます。肝欝がひどくなり、気逆を起 こし、それにともなって、ますます腎気が虚すという悪循環に陥り、何だか疲れの抜 けない状態というのが慢性化してしまうことになったのでしょう。

そのような状態のまま、いつの間にか38歳の冬になります。ここで、バイトや勉 強、来るべき国試、卒業後の進路など、一気に色々なことが押し寄せますが、どれもいまひと つ前向きになれないままで、過ごすことになります。このやる気のなさは、何なのか。 肝の根が弱って、がっくりときてしまったのか。肝腎同源 で、腎気が弱ってしまったのか。かなり鬱傾向も強かったので心の血虚とも考えられ ます。これは口内炎ともつながります。この時期、生理前の症状と生理痛そのもの が、ここ数年の中では、かなり厳しかった記憶があります







そのようなことも合わせて考えると、38歳の冬は、今まで以上に肝欝が強くなっ ていたのかな、と思います。肝失疎泄により、やたらとイライラして怒ってみたり、 そうかと思うと、どんよりとした無力感に捕らわれて鬱状態に陥ったり。しかし、 日々クリアしていかなければならないことはたくさんあるので、なんとか肝気を張ろ うとする。しかしもう根が弱って、腎による栄養補給も期待できない状態からは、ゆ らゆらした肝気しか立ち上がらない。疎泄も蔵血もままならず、心にも血虚という状 態をもたらしていたかもしれません。しかし唯一ここで踏ん張ってくれたのが、肝の 土台となる脾胃です。あいかわらず、しっかりと食べ、しっかりと排泄する、という 状況だけは変化がありませんでした。もしここで、脾胃が肝の横逆に負け、昇降機能 を失調させていたら、一気に、鬱病というような状況に陥っていたのかもしれませ ん。

身体的には、横になると、頭を揺らすような拍動を感じたり、夜間の耳鳴り、下ま ぶたの痙攣など、肝風内動の症状が見られます。梅核気もかなり気になるようになり ますが、肝欝の強さからくる気逆と考えて良いでしょう。また、何かに集中している ときに突然咳き込んでしまうことが多くなり、これも肝欝による、気滞、気逆の典型 的な表れだと思われます。力なく立ち昇り、無理に動こうとして滞ってしまった肝気 が、あちらこちらで身体の不都合を生み出したと考えるべきでしょう。

毎年の冬場の明け方の咳き込みも、この冬はかなりきついものとなります。肝気の 乱れで腎気がすっかり虚してしまったためだと思われますが、一昨年の夏に肺気を傷 めた影響が、腎気の不足により顕著になったという可能性も考えられると思います。







以上のことから考えると、私はもともとの素体が、ある程度、肝気を張って生き ていくように出来ているのだろうと思います。ただ、加齢やストレスを受けて、腎気 が弱ってくると、肝気をコントロールできない状況が加速してしまいます。その結 果、肝欝による症状が色々と身体に不都合をもたらすようになってしまうと。それ が、35歳からの状態です。枝葉を張ろうとしても、根っこが弱っていては、どうに もならないということですね。

もう一つの特徴として、下焦の寒邪の問題があります。クーラーの冷えに弱いこ と、お腹を冷やすと張痛などの症状が出やすいこと、などを考えると、私の下焦 は、外寒の邪を引き込み易いのかもしれません。先に、私は遺伝的に腎陽過多の傾 向があるかもしれないと述べました。つまり私の腎気が弱るということは、全身を 温クする腎陽の力が弱るという意味を持ちます。腎虚によって、外寒の邪を引き込み やすく、寒凝気滞血瘀という状態に陥り易いのだと思います。私は夏場でも、あまり 冷たいものを飲みたいと思わないのですが、それは脾胃が本能的にこ れ以上、下焦を冷やしてはいけないと、判断しているからかもしれません。

生理に関しては、ここ数年生理痛が軽くなってきたということは、今まで必死に生 殖機能の一環として、生理を起こしてきたが、加齢とともに、そのもつ意味合いがう すれてきたということがあるのかもしれません。








主訴:問診

四診

五臓の弁別

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その後の経過











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