はじめまして。伴 尚志と申します。よろしくお願いいたします。皆様と同じように、東洋医学の真実の道を見極めたいと思って日々臨床を行っている、一介の鍼灸師です。たまたまご縁がありまして、このたび講師としてこの会に参加することとなりました。
中医学との縁はけっこう古くて、25年ほど前、「中国書店」から出版された「鍼灸学講義」という上海中医学院の教科書の翻訳書を入手したころに始まります。これを手にして鍼灸学校に入学したのですが、その当時はまだ経絡治療が支配的な時代で、その書物は宝の持ち腐れ状態でした。ただ、その学校にたまたま北辰会の藤本蓮風先生がおられて、そのご縁で中医学を学ぶこととなりました。
また、クラスの仲間とともに単玉堂の《傷寒論鍼灸配穴選注》を翻訳し始めたのもこの頃で、これは卒業後数年で全訳にいたりました。現在のように古典や中医学の教科書や先生方がいる状態ではありませんでしたので、とにかく無理やり中医学書を読むという意欲だけでやっておりました。
学生の頃から、いつかは読むぞと中医学書を買い集めていきました。集めたものははじめのうちは現代中医学の教科書的なものでしたが、すぐに古典が中心となりました。大きなスーツケースをほぼ空の状態で中国に旅行し、数十キロの書籍を買い集めてくるという作業を何回か行いました。お陰で書棚には簡体字で書かれた日中の古典がたくさん並ぶこととなりました。
北辰会在籍当時には、《臓腑経絡学ノート》《鍼灸医学における実践から理論へ》という書籍の編集に携わりました。また依頼されて《杉山流三部書》の現代語訳を出版し、当時まだ日本には定着はしていなかった穴性の発想を中心課題とした《穴性学ハンドブック》という書籍を出版いたしました。これは昨年台湾で繁体字に訳されて出版されております。
内弟子を卒業して奈良で開業しながら、六妖會という名前の勉強会を大阪で十年ちょっと行いました。その中で当時私が翻訳して一部出版にこぎつけた《景岳全書》の講読や、昨夜できあがり本日初公開となりました《難経鉄鑑》の研究発表を続けました。この十年間は中医学のほうでは、日本において非常に力を持ち、また、多くの立派な教科書や雑誌が出、また研究会などもあったのだろうと思います。しかし私はそちらとのご縁はほとんどありませんでした。淡々と臨床を行い古典の勉強をしていたという感じです。
そうはいってもパソコンを持っておりましたので、NIFTYというパソコン通信を通じて、外部とはつながっておりました。そこでは漢方フォーラムというものがあり、その一室に鍼灸の部屋がありました。依頼されてそのボードオペをしながら、それまで学んだことやどのように考えて治療を行っているのかということに関してたくさんの発言を行いました。その過程で貴重なご意見を伺ったり、漢方薬の勉強に目を開かされたりしました。
そのような積み重ねを経て東京に移転することとなり、この機会にこれまで考えてやってきたことをまとめておこうと思って書き上げたものが《一元流鍼灸術の門》です。これはたにぐち書店から出版していただきました。
この中身についてまた後で解説することとなります。鍼灸の弁証論治はどのようにあるべきか、ということを東洋医学的な人間理解の方法論のあるべき姿は何かという観点から書いたものです。
東京に移転してから、この《一元流鍼灸術の門》を基礎とした弁証論治の勉強会を開くこととなりました。これが現在に続く一元流鍼灸術ゼミナールです。ゼミのメンバーがここで実際に弁証論治を作る練習をしています。この過程で、弁証論治のまとめ方などがさらに洗練されてきました。今回はその、現在までの成果を皆様にご紹介いたします。
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